本研究の目的は口腔がん患者のアイデンティティの崩壊・再構築のプロセスを明確にするために、心理・社会的ニーズおよび生活問題の要因を明らかにすることである。 研究は手術後の口腔がん患者(22名 術後1か月~10年)に聞き取り調査を実施した。また、抑うつ(BDI-Ⅱ)、主観的口腔機能(咬度、会話)、QOL(SF8 H&N35)に関する質問紙調査、半構造化面接によるSEIQoL-DWを実施した。そのうち6名には手術直後から最長16か月の継続調査を行った。 質問紙調査のクロス集計では「社会生活機能」(SF8)とH&N35のFeeding tube、Weight lossに、H&N35のWeight lossとSF8の心の健康、日常役割機能(精神)、精神的サマリースコアと主観的な会話困難感に有意な相関があった(p<0.05)。SEIQoL-DWの平均はSF8とH&N35の身体的な痛みが関係していた。2016年度に実施した質的研究では、口腔がんは一般的ながんと同様の問題とともに、摂食嚥下障害による社会関係の減少や心理的苦痛が生じていた。今年はそれを客観的に数値で裏付ける結果となった。 縦断調査によるSEIQoL-DWの変化には、さまざまな要因が関連していた。摂食嚥下機能障害がない患者のQOLは手術の前後で変化がなかった。しかし、体重減少をともなう摂食嚥下機能障害がある患者のQOLは、1年後が一番低かった。継続調査対象の6名が生活の質に大切だと考えるキュー(項目)に、全員が「仕事・経済・お金」を挙げた。その他に「健康」(4名)、「おいしいものを食べる」(4名)があった。 本研究により、口腔がん患者の社会的苦痛を含むトータルペインへの支援の必要性が明らかになった。歯科専門職と福祉専門職が連携するべき項目を明確にしたことで、口腔がん患者の人生が豊かになる可能性が高くなることは意義深いといえる。
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