研究課題/領域番号 |
16K11910
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 裕二 千葉大学, 大学院看護学研究科, 准教授 (40179792)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経科学 / 神経生理学 / 看護技術 / 高次脳機能 / 意識レベル / 意識障害 / 感覚刺激 / 科学的根拠 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,意識レベルを高める刺激として芳香刺激を用いた。健康な成人女性10名(平均年齢24.3歳)を対象に,刺激系の精油であるローズマリー(rosemary oil)の嗅覚刺激が生体に及ぼす影響について,生理学的指標(脳波,自律神経活動,心拍数)および心理学的指標(VAS,POMS2)から検討した。 実験は,最初の10分間を安静時間とし,コントロールとした。その後,刺激群はアロマオイルを10分間吸入し,吸入終了後は15分間の経過観察をした。対照群は10分間無臭状態とした。芳香刺激はローズマリーをコットンに5滴(約0.25mL)を滴下して使用した。脳波は左前頭部(F3),右前頭部(F4),左前側頭部(F7),右前側頭部(F8)におけるα波帯域(8Hz以上~13Hz未満)およびβ波帯域(13Hz以上~30Hz未満)の各時点の含有率を算出し,コントロールからの変化率を算出した。 心拍数は,吸入10分で,刺激群は2.8(beats/分),対照群は4.6(beats/分)の減少がみられ,有意傾向(p=0.091)が認められた。交感神経活動は,刺激終了後5分で,コントロールを1とした場合,刺激群は3.49,対照群は2.21の増加がみられ,刺激群の増加率が対照群よりも大きく,有意傾向(p=0.093)を示した。脳波は,脳活動の亢進を示すβ波帯域では,F3,F4,F7の3領域で,刺激群で増加率に有意傾向が認められた。F3,F7では吸入5分および刺激終了後5分,F4では吸入5分でそれぞれ増加率に有意傾向が認められた。心理的指標では,POMS2でCB(混乱-当惑)の得点が,刺激群が8.5であり,対照群は11.0で有意差が認められた(p<0.05)。 以上から,ローズマリーによる嗅覚刺激によって覚醒水準が亢進したといえる結果が得られたことから,意識障害患者に対しても有用性があると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は学部カリキュラムの改変があり,新カリキュラムと旧カリキュラムが同時に進行し,担当する講義時間が通常の2倍になり,研究に十分な時間を確保することが難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.意識障害患者に対する看護援助技術の実態調査(国内および海外) 意識障害患者に対して,意識レベルを改善する目的で行われている種々の看護援助技術について国内外の文献を検討するとともに,国内や海外の施設において実態調査を行い,そのエビデンスをさらに明らかにする。具体的には,以前に調査したことのあるフランスの施設において,さらに意識障害患者に対する看護援助についての生理的メカニズムについて明らかにする予定である。また,看護ケアの文化的な相違についても検討するため,アジア地域として大韓民国(韓国)または中華民国(台湾)での看護援助技術について調査することで,欧米およびアジア諸外国における意識障害患者に対する考え方や看護技術について文化的な背景を視点に検討する。
2.実験研究の実施 これまでの研究報告から,背面開放座位は意識レベルの改善に効果があることが示されている。しかしながら,背面開放座位単独では意識レベルが低下する傾向が認められることから,さらにどのような刺激を背面開放座位実施時に併用することで意識レベルの改善に効果があるかについて,健康な成人(20~30歳代)と意識障害患者に対して,覚醒レベルと刺激の種類(味覚刺激,痛覚刺激,聴覚刺激,芳香刺激など)および刺激強度との関係を生理学的指標(覚醒レベル,脳波,自律神経活動,筋電図,体性感覚誘発電位,バイタルサインなど)および心理学的指標から検討することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた看護ケアの文化的な相違について検討するための海外視察が日程的な問題で実施することができなかったために次年度使用額が生じた。 看護ケアの文化的な相違について検討するために,アジア地域として大韓民国(韓国)または中華民国(台湾)とヨーロッパ地域としてフランス共和国の訪問を計画している。
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