研究課題/領域番号 |
16K11910
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
田中 裕二 千葉大学, 大学院看護学研究科, 准教授 (40179792)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経科学 / 神経生理学 / 看護技術 / 高次脳機能 / 意識レベル / 意識障害 / 感覚刺激 / 科学的根拠 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,健康な成人女性20名(平均年齢21.6歳)を対象に,被験者の好みの刺激的な音楽(好みの曲)と研究者が用意した音楽(指定曲)による聴覚刺激が生体に及ぼす影響について,生理的指標(脳波,自律神経活動,心拍数)および心理的指標(主観的心理状態(SD法),POMS2,音楽の好み(VAS))から検討した。 実験は最初の5分間を安静(コントロール)とし,安静後,好みの曲と指定曲をそれぞれランダムに5分間聴取した。好みの曲は,「目覚められる,元気が出る,かつ好きでよく聴く音楽」とし,指定曲は刺激的な要素を含むHolstの“The Planets”から“Mars”を使用した。脳波は前頭極(Fp1,Fp2),中側頭部(T3,T4)の4部位を解析し,α波帯域およびβ波帯域の含有率を算出し,音楽聴取前の安静時に対する変化率を算出した。 α波帯域では,前頭極および中側頭部は共に好みの曲に対してのみ有意な増加を示した。β波帯域では,中側頭部の脳波はすべての解析時点で,好みの曲の方が指定曲よりも有意に大きな値を示した。心拍数はすべての解析時点で好みの曲の方が有意に多く,交感神経活動も同様に有意な増加を示した。POMS2では,好みの曲は指定曲と比較して,疲労-無気力(FI),緊張-不安(TA),ネガティブな気分状態(TMD)を有意に減少させ(p=0.021, 0.016, 0.002),活気-活力(VA),友好(F)は有意に増加させた(p=0.000, 0.002)。 以上のことから,好みの刺激的な音楽は好みでない刺激的な音楽と比べて,生理的にも心理的にも活動性を亢進させ,その効果は活気や友好,快感情などのポジティブな効果をもたらすと考えられる。臨床においても,活動性が低下した患者や意識障害の患者に対して,好みの音楽を聴取させることは心身の活動性を高める可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は教室員の出産による休職,学部および大学院の講義,大学院生の論文指導や卒業研究指導などにより業務が多忙になり,研究を遂行するための十分な時間を確保することが難しかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.実験研究の実施 これまでの研究報告から,背面開放座位は意識レベルの改善に効果があることが示されている。しかしながら,背面開放座位単独では意識レベルが低下する傾向が認められることから,さらにどのような刺激を背面開放座位実施時に併用することで意識レベルの改善に効果があるかについて,健康な成人(20~30歳代)を対象に,覚醒レベルと刺激の種類(触覚刺激,痛覚刺激,聴覚刺激,味覚刺激,嗅覚刺激など)および刺激強度との関係を生理的指標(覚醒レベル,脳波,自律神経活動,バイタルサイン,筋電図など)および心理的指標から検討することを計画している。
2.意識障害患者に対する看護援助技術の実態調査(海外) 意識障害患者に対して,意識レベルを改善する目的で行われている種々の看護援助技術について国内外の文献を検討するとともに,海外の施設において実態調査を行い,そのエビデンスをさらに明らかにする。具体的には,以前に調査したことのあるフランスの施設において,さらに意識障害患者に対する看護援助についての生理的メカニズムについて明らかにする予定である。また,看護ケアの文化的な相違についても検討するため,アジア地域として大韓民国(韓国)または中華民国(台湾)での看護援助技術について調査することで,欧米およびアジア諸外国における意識障害患者に対する考え方や看護技術について文化的な背景を視点に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,本年度,教室員の出産による休職,学部および大学院の講義,大学院生の論文指導や卒業研究指導などにより業務が多忙になり,研究を遂行するための十分な時間を確保することが難しくなったことが挙げられる。 次年度の使用計画は,本年度実施できなかった看護ケアの文化的な相違について検討するために,アジア地域として大韓民国(韓国)または中華民国(台湾)とヨーロッパ地域としてフランス共和国の訪問を計画している。また,健常人を対象にした背面開放座位での感覚刺激が脳活動に及ぼす影響を調べるための実験研究を計画している。
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