令和元年度は健康な成人を対象とした実験とフランスにおける意識障害患者に対するケアについての調査研究を実施した。 健康な成人女性16名を対象にした実験では,仰臥位,背面開放座位のみ,背面開放座位にハンドマッサージを併用した3条件で生理的指標(脳波,自律神経活動,心拍数)および心理的指標(主観的感覚尺度(VAS))から検討した。背面開放座位で脳波,交感神経活動および心拍数は亢進し,副交感神経活動は抑制されたが,ハンドマッサージでは自律神経活動および心拍数には2群間に有意差はみられなかった。脳波では4部位(中心部(C3,C4),頭頂部(P3,P4))のすべてのα波帯域(8~13 Hz)において,全時点で背面開放座位群がハンドマッサージ併用群よりも増加率が大きい傾向が認められた。β波帯域(13~30 Hz)でもα波帯域と同様の傾向がみられた。このことから,背面開放座位は脳活動および交感神経活動を亢進させ,副交感神経活動を抑制することが示された。ハンドマッサージは健常者の脳活動を抑制したことから,触覚刺激の強度についての検討が必要であり,また,意識障害患者での検証の必要性が示唆された。 フランスにおける意識障害患者に対するケアでは,医師は聴覚刺激による聴覚誘発電位(AEP)を記録し,ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)を介した生体反応から患者の状態を判断していた。また,看護師は看護ケアにおいて,特に声かけ刺激による患者の表情などの反応の変化から意識レベルを判断していた。 本研究期間において,健常者を対象に姿勢(背面開放座位)や体性感覚刺激(ハンドマッサージ),聴覚刺激(音楽聴取),芳香刺激(アロマオイル)などの感覚刺激を用いて脳活動が亢進することを脳波分析から明らかにした。このことは,これらの刺激が意識障害患者の意識レベルを高める可能性があることを示唆するものである。
|