研究課題/領域番号 |
16K12054
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
松田 千春 公益財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (40320650)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ALS / 口腔症状 / 人工呼吸療法 / 口腔関連筋 / 舌肥大 / 神経難病 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の臨床経過における口腔症状について、医学・歯学・工学の専門家と連携し口腔の苦痛症状の原因を探索し、苦痛緩和のための看護ケアにつなげることである。2年目である29年度は、以下の調査を行い成果を得た。1.一施設92例の人工呼吸療養者(ALS70例、ALS以外22例)の口腔症状に関する実態調査を行った。舌肥大はALSに特徴的に生じており、コミュニケーション障害の重症化に応じて舌肥大の割合が増加していた。現在、ALSおよびALS以外の疾患の口腔症状と臨床指標との関係を分析中である。2.外来通院中のALS患者の口腔症状と臨床指標との関係を明らかにするため、舌圧と臨床指標との関係を検討した。年齢64.6±90.9歳(平均±SD)、発症から28.8±21.2か月のALS患者の舌圧値は努力肺活量、Cough peak flow、ALS重症度スコアの上肢の項目について有意な相関を認め、ALSの進行と関連していた。3.在宅療養中の11例のALS人工呼吸療養者について前向き調査を行い、口腔症状の変化と対応策を整理し、口腔症状の定量的評価を試みた。口腔の問題は経過とともに重度化していたが、症状に合わせた口腔ケアや歯科的治療を行うことで症状が改善した例があった。咬筋と舌の厚みに関する口腔症状の評価として、プローブの形状や周波数の異なる5社のポータブル式の超音波製品を選択し、測定を試みた。しかし、ALS人工呼吸療養者の場合、舌の厚みを測定するには座位がとれないこと、気管カニューレがあることから、適切な部位にプローブを設置できなかった。さらに咬筋の測定については進行したALSでは筋がやせており、計測に測定者の高い技術と経験を要した。そのため、現在医療処置を実施しない外来通院者2例から口腔症状の測定を試みており、データを積み重ねている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、これまでほとんど研究が行われてこなかった重度なALSの口腔症状を明らかにし、原因を探索することで看護ケアにつなげることである。研究計画は、1.ALSの臨床経過と口腔症状に関する実態調査、2.ALSとALS以外の人工呼吸療養者の口腔症状の比較調査、3.口腔症状の定量的な評価の検討、であり、29年度は、1および2を明らかにするために、ALSとALS以外の療養者を対象とした実態調査を行い、口腔症状を整理した。29年度の重点目標であった施設調査をおえ、現在は論文化にむけて、データの整理および分析を行っている。在宅ALS人工呼吸療養者に対する前向き調査は継続して行っており、症状と対応策を整理し、多職種による苦痛症状解決のための効果的な対応策を検討している。そのためにも、3の定量的評価の実現が必要だが、進行した重度なALS療養者の口腔症状を詳細に測定する機器・器材は無いに等しく、課題解決には至っていない。そのため、外来通院中の比較的重症度が軽い状態のALSに対象をひろげて調査を行っており、経過に沿って客観的評価を行うために必要な点を整理していくことが3年目の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
ALSの特徴的な口腔症状を明らかにし、臨床経過に沿って口腔症状に与える要因を分析し、看護ケアにつなげていくことが本研究の目的である。そのため、今後も調査を継続し、得られた資料を詳細に分析し、論文化していく。ALS人工呼吸療養者に特徴的な口腔症状を明らかにし、臨床指標との関係について説明できれば、神経難病の中でも最重度と言われているALSの苦痛緩和につながる可能性がある。難点なのは、機器・器材を用いた定量的評価であり、課題が山積している。これら課題を一つずつ解決していくために、30年度は外来通院中の比較的重症度が軽い患者に対象を広げ、経過に沿って調査を行っていく。口腔の問題が小さい時から介入できれば、苦痛症状を引き起こさない、あるいは緩和することが見込めるが、一方で診断後の難しい時期であるため、十分に体制を整えて実施していく必要がある。さらに、課題解決のためには、多職種で連携し、口腔苦痛症状に早くから着眼し、ケア・治療できる体制を強化していくことが必要であり、共同研究者らとチームで取り組み、研究を推進できるよう取り組んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目は対象に適した機器・器材について対象の症状と機器・器材の性能や形状、価格と条件が合わず、口腔症状を定量的に評価するための研究の基礎を構築することが遅れたため、30年度に予算を繰り越した。3年目にあたる30年度は、継続する調査のために機器・器材の購入や、研究協力者への謝金、調査後の入力や人件費を必要とする。またデータの詳細な分析、論文化のための英文校正料金などが必要である。
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