研究実績の概要 |
最終年度には、大人を対象として、心の中での対乳児発話産出の脳波計測実験を行った。その結果、大人に対する話しかけの条件と比べて、対乳児発話の条件では右の前頭葉のチャンネル(F8)においてシータパワーの増加が認められた。なお、顔の認知に重要な役割を果たす紡錘状回の付近に位置するP7,P8のチャンネルについても同様の解析を行ったが、これらのチャンネルでは対乳児発話の条件で特異的な反応は認められなかった。 研究期間全体としては、生後5ヶ月および9ヶ月の日本人乳児を対象に、母国語と非母国語の子音の弁別に関する実験と育児語型韻律の知覚に関する実験を行った。また、大人を対象として乳児に対して心の中で話しかける実験を行った。その成果としては、(1)乳児が子音を弁別できるか及びそれに伴う脳活動は、子音が母国語であるかどうかだけでなく、子音が変化する方向(例、LからR)によっても異なること(2)5ヶ月児は育児語型の韻律に対して、9ヶ月児は非育児語型の韻律に対してより大きな脳反応を示すこと(3) 乳児に対する話しかけを行う際、大人に対する話しかける場合とは右前頭葉における脳活動が異なることが明らかとなった。 乳児に対して話しかける際には、韻律の強調や特殊な語彙の使用など、大人に対する発話とは異なった特徴的な話し方(対乳児発話)になることが知られている。この対乳児発話は乳児にとって認知しやすく、また言語発達に寄与することが報告されているが、その多くは欧米の言語を対象とした研究である。本研究の成果のうち(2)は、日本語の育児語に多く存在する韻律のパターンが乳児の言語発達に寄与している可能性を示唆するものであり、対乳児発話の機能について欧米以外の言語から迫る貴重な知見である。
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