研究課題
ヒトゲノム全体に多数散在しているマイクロサテライト配列は、多くのがん細胞で不安定化していることが報告されている。家族性大腸がんの解析からマイクロサテライト配列の不安定性(MSI)にはミスマッチ修復異常が関連していることが明らかにされたが、それ以外の要因も関わっていると考えられるデータがあるにもかかわらず、他の要因は明らかにはされていない。平成28年度は、MSIが発生する要因を解明するために、MSIを簡便に検出する新しい実験系の構築のためにベクターの作製を行った。AcGFPのORFとmCherryのORFをD13S175のCAリピートでつなぎ、Type A MSIが生じるとAcGFP-mCherry融合タンパク質が発現するType Aベクターを作製した。また、AcGFPのORFとmCherryのORFを繋ぐスペーサー領域に、D13S175のCAリピートに停止コドンを挿入して作製したCAリピート・停止コドンカセットを挿入し、停止コドンがなくなるようなType B MSIが生じるとAcGFP-mCherry融合タンパク質が発現でき、Type A MSIが生じた場合はAcGFPが発現してもmCherryは発現しないType Bベクターの作製を行っている。MSIはDNAポリメラーゼの複製エラーで生じたマイクロサテライト配列内での欠失・挿入がミスマッチ修復系の欠損により修復されないで残り、次の複製でリピート数の変化が固定されて生じるとされている。そこで、校正機能を失ったDNAポリメラーゼを持つ細胞を作製して複製エラーを亢進させ、Type A MSIとType B MSIの発生頻度を検討するために、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集により3'-5'エキソヌクレアーゼ・ドメインにアミノ酸置換変異を導入したHeLa細胞を作製した。
2: おおむね順調に進展している
蛍光タンパク質の種類は変えたが、当初の計画通りMSIを簡便に検出する新しい実験系の構築のためにベクターの作製を行った。Type A MSIが生じるとAcGFP-mCherry融合タンパク質が発現するType Aベクターを作製し、HeLaMSH2欠損細胞を用いて有用性の確認を行っている。また、AcGFPのORFとmCherryのORFをつなぐスペーサー領域に、CAリピート・停止コドンカセットを挿入し、Type B MSIが生じるとAcGFP-mCherry融合タンパク質の発現が期待できるType Bベクターの作製を進めている。MSIはDNAポリメラーゼの複製エラーで生じたマイクロサテライト配列内での欠失・挿入がミスマッチ修復系の欠損により修復されないで残り、次の複製でリピート数の変化が固定されて生じるとされている。MSH2完全欠損細胞だけでなく、MSIが診断基準となっているリンチ症候群で認められている変異を導入したヒト細胞株を樹立し、解析を進めている。さらに、複製エラーの亢進とType A、Type B MSIの発生との関連を検討するために、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によりDNAポリメラーゼδの3'-5'エキソヌクレアーゼ・ドメインにアミノ酸置換変異を導入したHeLa細胞を作製している。
当初の計画通り、(1)新規検出系を導入した細胞株を樹立し、安定性に関しての検討を行う。(2)新規検出系を導入した細胞を化学物質などで処理してMSIを誘導するものの検索を行う。(3)siRNAライブラリーを用いて、その欠損がMSIを誘導する遺伝子の網羅的検索を行う。
物品費に関しては、研究室でストックしていた消耗品を使用することで、年度内での購入分の節約ができた。また、旅費に関しては、他の資金で学術集会での発表ができたので、当初予算のほぼ半額ですんだ。
繰越した59万円を人件費・謝金として活用し、変異解析を担当する研究補助員を雇用して集中して効率的に解析を進める予定。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
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