本研究は、腸管樹状細胞の機能を新規ナノ粒子により制御することによって、アレルギー疾患の克服を目指すものである。まずは、腸管免疫細胞への送達可能なナノ粒子の作成を試みた。ナノ粒子は、生体適合性の高いマテリアルを探索し、また合成法の容易なものを選択した。その結果、リン酸カルシウムナノ粒子を選択した。リン酸カルシウムは歯や骨の主たる構成成分であり、生体親和性は極めて高い。コアであるリン酸カルシウムナノ粒子 (CaP NPs) の合成は Powell らが報告した Emulsion 法を用いて行った。CaP NPs の粒径を動的光散乱法 (DLS) によって測定した結果、粒径は 5.1 nm 、 ゼータ電位は -33.9 mV であった。1年目では、PEIおよびPEI-FITCで表面修飾し、マウスマクロファージ細胞株 RAW264.7を用いて、細胞への取り込み実験を行った。その結果、マクロファージ細胞株への取り込みは高かった 。2年目、3年目では、さらに細胞への取り込み効率を向上させるために、キトサンでの表面修飾を行った。薬剤を模倣した色素をコアに担持させる合成法やキトサンに色素を修飾する合成法を試みた。これらの方法で合成したナノ粒子を用いて、マウスマクロファージ細胞株RAW264.7への細胞取り込みを検討した結果、キトサン修飾カルシウムナノ粒子は、は効率良く細胞に取り込まれた。また、細胞毒性も認められなかった。さらに、OVA(卵白アルブミン)/ALUMによる感作でアレルギーモデルマウスを作成し、血清中および肺洗浄液中のIgE抗体価上昇は確認できたが、ナノ粒子の経口投与による病態改善の評価までは至らなかった。
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