研究課題/領域番号 |
16K13024
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
川中 健太郎 福岡大学, スポーツ科学部, 教授 (80339960)
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研究分担者 |
檜垣 靖樹 福岡大学, スポーツ科学部, 教授 (10228702)
増田 紘之 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 助手 (10738561)
羅 成圭 福岡大学, スポーツ科学部, 助教 (60741999)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | インスリン / 運動 / 脳 / 糖取り込み / GLUT4 / 2-deoxyglucose / 海馬 |
研究実績の概要 |
インスリンは骨格筋に作用すると、普段は筋細胞内部に存在している糖輸送担体(GLUT4)を細胞膜表面に移行させることで、血糖取り込みを活発化させる。取り込まれた血糖は筋グリコーゲンとして貯蔵される。ところで、脳にもインスリン受容体やGLUT4が発現しており、また、グリコーゲンも貯蔵されている。そこで、脳も筋と同様にインスリンの働きによって血糖を取り込み、取り込んだ血糖を脳グリコーゲンとして貯蔵する可能性について検討した。 ラットの頚静脈に留置したカニューレを通じて0.5U/kg体重のインスリンならびに0.15mmol/kg体重の2-deoxyglucose(2DG)を血管内に注入した。30分後に脳の各部位を摘出して、2DG6Pの蓄積量を測定することによって脳の糖取り込み速度を評価した。血中へのインスリン投与はヒラメ筋の糖取り込み速度を有意に上昇させたが(P<0.01)、脳の各部位の糖取り込み速度を上昇させなかった。さらに、側脳室に留置したカニューレを通じて20mUのインスリンを脳室内に投与した直後に血管内に2DGを投与して脳の糖取り込み速度を測定した。しかし、脳室内にインスリンを投与しても、脳の各部位における糖取り込み速度の上昇はみられなかった。 ところで、生理的濃度のインスリンで脳の糖取り込みは最大に達していて、インスリンを投与しても脳の糖取り込みは上昇しないが、インスリンを欠乏させると糖取り込みが低下する可能性が考えられる。そこで、ラットの脳室内にインスリン作用をブロックするワートマニンを0.1mmol投与した後に脳の糖取り込み速度を評価した。しかし、ワートマニン投与によって、脳の各部位における糖取り込み速度の変化はみられなかった。 今後はラットから摘出した海馬を試験管内でインスリンに暴露する実験系を用いて、インスリンが脳の糖取り込みに及ぼす直接効果について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度には、「脳も骨格筋と同様にインスリンの働きによって血糖を取り込んでいる」との可能性について検討した。 ラットの頚静脈に留置したカニューレを通じて2-deoxyglucose(2DG)を血管内に注入することで脳の糖取り込み速度を評価する方法、また、ラットの側脳室内にインスリンを投与する方法の実施には繊細な技術を要するものの、すでに前任校の新潟医療福祉大学でこれらの技術を確立していた。そこで、分担研究者の増田紘之助手(新潟医療福祉大学)と協力することで必要な実験を円滑に行うことができた。実験結果としては仮説どおりの結果を得ることはできなかったが、進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価している。 現在、ラットから摘出した海馬を試験管内でインスリンに、直接、暴露することで脳の糖取り込みが上昇するか検討する実験を準備している。この実験を行うことで、インスリンが脳の糖取り込みにに及ぼす効果についてはほぼ明確にできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度には、インスリンを脳室内に投与しても脳の糖取り込み速度が上昇するとの実験結果を得ることはできなかった。29年度には、ラットから摘出した海馬を試験管内でインスリンに、直接、暴露することで脳の糖取り込みが上昇するか検討する実験を準備している。この実験を行うことで、インスリンが脳の糖取り込みにに及ぼす効果についてはほぼ明確にできると考えている。 さらに、29年度には、脳の血糖取り込みに対する運動の急性ならびに慢性効果について検討する。そこで、ラットをトレッドミルを用いて低強度(乳酸閾値未満)、中強度(乳酸閾値レベル)、高強度(乳酸閾値以上)のそれぞれの走行速度で30分間運動させたときの脳の糖取り込み速度について検討する。また、運動時間を120分間に増加させたときの脳の糖取り込み速度について検討する。そして、最も糖取り込み速度の上昇が顕著な運動条件を選択して、その運動を4週間トレーニングとして行ったときの脳の糖取り込み速度やGLUT4発現量の変化についても検討する。 なお、予備実験として、トレッドミルを用いたラットの漸増運動負荷試験を行い、17.5m/分がラットの乳酸閾値であることを確認している。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者の川中が福岡大学に転任して間もないこと、また、実験室スペースが確保できていないことから(現在、福岡大学当局に実験スペースの増加を申請中)、脳の糖取り込み測定試験のセットアップが行えなかった。脳の糖取り込み試験自体は、川中の前任校であり、共同研究者の増田紘之助教が所属する新潟医療福祉大学で行うことができたが、セットアップにかかる費用を消費することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
代表者の川中が所属する福岡大学にて、脳の糖取り込み測定試験をセットアップする。繰越額はそのための費用にあてる。
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