研究課題/領域番号 |
16K13208
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
田中 琢三 お茶の水女子大学, 外国語教育センター, 助教 (50610945)
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研究分担者 |
高橋 愛 法政大学, 社会学部, 准教授 (80557281)
中村 翠 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (00706301)
福田 美雪 (寺嶋美雪) 獨協大学, 外国語学部, 准教授 (90632737)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フランス文学 / 文献学 / 政治思想 |
研究実績の概要 |
平成29年度は前年度に引き続きエミール・ゾラの作品におけるモニュメントの表象の分析を行うとともに、ゾラ以外の作家とモニュメントの関係について検討した。 研究分担者の高橋は、パリのヴァンドーム広場にあるナポレオン円柱に着目し、ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』の小説、具体的には『獲物の分け前』『居酒屋』『壊滅』『愛の一ページ』における登場人物たちと、ナポレオン伝説のモニュメントといえるこの円柱との関わりに注目して、ナポレオン円柱に対する作中人物の多様な視線の意味を政治的、社会的な観点から検討し、その成果を学術雑誌に論文として発表した。 そして平成29年10月29日に名古屋大学東山キャンパスで開催された日本フランス語フランス文学会2017年度秋季大会において、北海道大学准教授の竹内修一氏をコーディネーター、研究代表者の田中と研究分担者の福田をパネリストするワークショップ「パンテオンと作家たち」を実施した。このワークショップでは、第三共和政以降にパリを代表するモニュメントのひとつであるパンテオンで行われる国葬、つまりパンテオン葬を取り上げ、田中がヴィクトル・ユゴーの、福田がゾラの、竹内氏がアンドレ・マルローとアレクサンドル・デュマのパンテオン葬について報告した。これらのパンテオン葬の検討によって、フランスという国家と文学が取り結ぶ関係の変遷について明らかにした。その成果を踏まえたうえで、田中と福田はそれぞれ異なった視点からゾラのパンテオン葬を検討した論文を学術雑誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目となる本年度は、初年度の研究活動を継続しつつ発展させることで、モニュメントをテーマとした文学研究の可能性をさらに切り開くことができた。例えば、研究分担者の高橋が発表した論文においては、ゾラの小説の登場人物たちがモニュメントの呼び起こす記憶を共有しているか否かによってモニュメントを前にした彼らの態度が異なることが示されるとともに、モニュメントに対する登場人物の視線を通して彼らの人生や思想が浮き彫りにされていることが明らかにされた。 また、パンテオン葬を専門に研究する竹内修一氏と共同でワークショップ「パンテオンと作家たち」を開催したことで、本研究のテーマの射程をさらに広げることができた。つまり文学作品におけるモニュメントの表象という観点だけではなく、文学とモニュメントの政治的な関係性という視点を新たに得ることができた。パリのパンテオンはフランス共和国の「偉人たち」が埋葬された霊廟であり、いわば共和主義の象徴としての墓であって、ナショナルアイデンティティとしてのモニュメントである。そのパンテオンに文学者が埋葬されることの政治的意味を探ること、あるいはそのようなパンテオン葬を同時代の文学者がどのように描いているのかを検討することが、モニュメント研究の重要な課題となりうることがワークショップにおける報告を通じて確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成30年度は、これまで2年間の研究を踏まえながら、ゾラの作品におけるモニュメントの表象を調査する作業をさらに進めながら、『ゾラ・モニュメント事典』(仮題)の企画を具体化していく。基本的には前年度と同様に研究代表者と研究分担者の各々が個別に研究を実施するが、研究代表者の田中は、ナショナルアイデンティティとしてのモニュメントと文学の関係性を中心的に検討する。具体的にはモーリス・バレスの三部作『国民的エネルギーの小説』の第一巻『根こそぎにされた人々』におけるパリの凱旋門、アンヴァリッド、パンテオンなどに関する記述や、第二巻『兵士への呼びかけ』におけるモーゼル川流域に建てられた普仏戦争の戦没者記念碑や兵士の墓をめぐる言説に注目して、これらのモニュメントの表象とバレスのナショナリズムの生成との関係を明らかにしたい。 そして本研究の総括、あるいは新しい問題提起として、平成30年度の後半以降に「文学とモニュメント」というテーマで学際的なシンポジウムあるいは研究発表会をお茶の水女子大学において開催する予定である。具体的には本研究の研究代表者と研究分担者の4名によるこれまでの研究成果の報告や、北欧およびドイツ文学の研究者である東京理科大学准教授の中丸禎子氏によるコペンハーゲンの人魚姫のモニュメントに関する講演を企画している。
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