研究代表者の松井太は,敦煌地域の仏教石窟のウイグル語題記銘文資料のうち,特に文殊信仰・五臺山信仰を反映するものを集成して,中国語で論文を発表した。また,敦煌を中心とするウイグル仏教徒にみられる宗教文化の混淆について,国際学会で報告した。その他,新疆トゥルファン地域の大桃溝仏教石窟のウイグル語題記銘文の解読と,チベット大蔵経に伝えられる仏教聖者伝との内容比較作業をもとに,モンゴル時代トゥルファンのウイグル仏教におけるチベット仏教の影響について,現地研究者との共同論文を準備した(陳愛峰・陳玉珍・松井太「大桃兒溝第9窟八十四大成就者圖像補考」,投稿中) なお,エルミタージュ美術館(ロシア・サンクトペテルブルク)には,20世紀初頭に新疆トゥルファン地域のベゼクリク石窟からドイツ探検隊により将来されたウイグル時代の仏教・マニ教石窟壁画資料が保管されていることが判明した。これらは第二次大戦時に破壊・消失したと考えられていたもので,ウイグル語題記銘文を含む重要資料である。現地研究者との連絡・調整を経て,2020年3月に渡航調査を予定したものの,新型コロナウイルス流行に伴う海外渡航の制限から,研究期間内での調査を断念せざるを得なかった。 その他,研究協力者の菊地淑子を敦煌石窟の現地調査に派遣し,敦煌莫高窟第217窟を中心に莫高窟・楡林窟の仏教壁画を調査した。また,菊地とは別に,研究協力者の坂尻彰宏を敦煌石窟の現地調査に派遣し,莫高窟・楡林窟の漢文の供養者題記を検討させた。
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