[研究の目的] 100nm以下の微細微小気泡をウルトラファインバブルと呼称し,長期間安定であるためその応用分野は,電子産業分野,洗浄分野,医療・薬品分野,健康分野,農業・水産分野,食品・飲料分野など極めて広範囲に及んでいる。しかし,ウルトラファインバブルの産業利用が先行する一方,その物理化学的な性質や生成・消滅機構,存在状態の構造動態などに関する実験的研究や理論的解明は遅れており,本格的な産業応用には基礎物性研究や生体物質を含む各種物質との相互作用等に関する研究の進展が鍵を握っている。そこで,放射光X線・中性子散乱法を適用して,ウルトラファインバブルの基本構造およびタンパク質や脂質膜に対する効果を検討した。 [研究成果] 空気,窒素,酸素を封入したウルトラファインバブルを作成し,まず,その基本構造を検討した。動的光散乱法とX線小角散乱法を用いてその粒径分布を求めた結果,そのサイズが2倍近く異なることが判明し,その違いが,バブル気泡と水層との気液界面の動的性質によることを示した。すなわち,気液界面では,活発にガスの溶解と放出が繰り返されており,ガスやイオンが濃縮された拡散層が存在し,その存在がウルトラファインバブル構造の安定化をもたらすことをモデル構造解析により見出し,アメリカ化学会の論文誌に掲載された。このような構造モデルの発見は世界初である。さらに,ウルトラファインバブルの各種球状タンパク質および生体膜中で情報伝達に直接関与する脂質ラフト膜に対する効果を検討した。ウルトラファインバブルは,疎水性粒子としての性質を有するが,親水性残基と水和シェルで覆われたタンパク質に対しては,殆ど影響を与えないが,リポソームの脂質二重層膜のアルキル鎖間の疎水性相互作用を強める効果があることを見出した。
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