研究課題/領域番号 |
16K13822
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金崎 順一 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (80204535)
|
研究分担者 |
木曽田 賢治 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90243188)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ラマン散乱分光 / 時空間分解測定 / グラファイト / ナノ構造 / 光誘起構造相転移 / ゲルマネン |
研究実績の概要 |
本研究の研究対象である、グラファイト表面の新規ナノ構造相を創成する光励起条件の最適化を行った。フェムト秒励起パルス光の励起波長・強度・励起ドーズを変化させ、照射表面を温度可変トンネル顕微鏡により直接観察した結果、ナノ構造相の核形成過程やその後の新規構造相の成長過程に強い励起波長依存性がある事を明確にし、ナノ構造相のサイズや密度を光励起条件により制御できる事を確認した。もう一つの研究対象であるIV族元素単一原子層物質(ゲルマネン)の合成のため、基板アルミニウムの清浄化と共に、ゲルマニウム蒸着装置の設計・製作を行った。合成した試料をトンネル顕微鏡を用いて観察し、基板温度や蒸着スピード等の合成条件を最適化している。 試料合成と並行して、時空間極限ラマン分光測定システムの光学系を構築した。シリコン基板を標準試料として、その表面で散乱したHe-Ne光を用い、初年度に製作した光ファイバによる集光系の調整を行うと共に、連続光源によるシリコンのラマン散乱分光測定を行い、分光光学系を調整を試みた。この段階において、当初使用予定であったインテンシファイア付きCCD検出器に異常がある事が判明し、電子冷却タイプCCD検出器に交換することにより集光及び分光光学系の調整を継続し、光学系の構築はほぼ完了した。 さらに、グラファイト表面ナノ構造の創成とラマン分光測定をin situで行う為、フェムト秒励起パルス光を入射する光学系を追加整備した。本測定システムの試料ステージに設置したグラファイトに400nmパルスレーザー光を照射し、分担者が所有する通常のラマン分光システムを用いて照射スポットのラマン測定をおこなった。炭素原子の六角格子内振動由来のGバンドと欠陥由来によるDバンドの信号を検出し、照射によりD/Gピーク比が増大する事、Gバンドの半値幅が若干広がる事を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光学系を構築し、標準試料によるラマン散乱分光測定を開始する段階に至って、本研究で使用する予定であったインテンシファイア付きCCD検出器の動作不良が判明した。本検出器は、広帯域波長域の散乱光を同時にかつ高感度で分光測定することが可能であり、計画の根幹の一つである時間分解パルス測定に必須の検出器である。本検出器を検査依頼したところ、信号読出機構に異常が見られることが判明した。既に修理保証期間も終了している上、製造メーカーによる修理体制もなくなっていることから、本検出器を修理して使用する事が不可能となった。そのため、上記検出器と比較して検出効率は劣るが、液体窒素冷却型のCCD検出器を分担者の所属機関より借入する事により研究を継続することとした。現状、分担者の所属機関(和歌山大学)において代用の液体窒素冷却型CCD検出器の貸与手続きを進めているが、研究再開時期については未定である。
|
今後の研究の推進方策 |
高感度型検出器の故障に伴い、当面は電子冷却型CCD検出器(現有)を用い、液体窒素冷却型CCD検出器が移設完了次第、これに交換して計画を進める。検出器感度の問題によりパルス測定(時間分解測定)が困難な事から、連続光源による空間分解測定を優先する。 1)グラファイト表面のナノ構造を対象とした空間分解ラマン分光測定を推進する。グラファイトにパルスレーザー光を照射し、サイズや密度を制御して新規ナノ構造相を創成し、その構造をトンネル顕微鏡(STM)により直接観察する。グラファイト構造が残る領域とナノ構造相が創成した領域上で探針の位置を変化させ、ラマン散乱における探針増強効果と空間分解能を評価する。更に、ナノ構造の局所ラマンスペクトルを解析し、sp3結合形成に由来する新規ピークの発現やGバンド半値幅等のピーク形状変化を明確にする。スペクトル変化の特徴を、STMによるナノ構造の局所構造及びトンネル分光(STS)による局所状態密度分布との相関という観点より系統的に整理し、光創成新規ナノ構造の構造的・電子的物性を解明する。 2)IV族単原子層物質(シリセン、ゲルマネン)のラマン分光測定を行い、2次元原子層に特有の振動特性や電子物性について明らかにする。更に、光励起によるsp2-sp3変換効果を利用し、理論的に予見されている光誘起構造相転移や新規ナノ構造の探索を行い、STM・STSによる結合形態等の局所構造に関する知見と、ラマン分光による電子特性や振動特性との相関を明確にする。 3)上記課題の結果に基づき、局所ラマンスペクトルの時間分解測定を行う。検出器の変更による検出効率の低下はパルス積算によって補う。初年度に構築したパルス列時間遅延励起用の光学系を利用してポンプ光とプローブ光を試料に入射し、遅延時間を制御して局所ラマンスペクトルを測定し、光励起による構造動力学の解明にアプローチする。
|