研究課題
本研究では統合失調症脆弱因子、ニューレグリン1(NRG1)の特異的活性化因子であるKLK8(ニューロプシン)が、大脳皮質、海馬、扁桃体で可逆的なシナプス形成能をもつことを利用して、人為的に起こさせた抑制性シナプトパチーを脳部位に回復させ、抑制性シナプスの機能不全と回復が実験動物の行動異常のパターンにどのように関与するか明らかとすることを目指した。これによりシナプトパチーの疾患の一つと考えられる統合失調症・双極障害・アルツハイマー病の症状の軽減、さらに回復のための方法開発につながる。KLK8欠損マウス(シナプトパチー)の行動パターンを各種社会性テストにより詳しく調べ、野生型との社会行動上の違いを明らかとした。同じケージで同様に育った兄弟マウスの中に侵入者マウスを入れるとimmediate early geneの活性化を示す免疫反応の増加が認められた。この上昇は海馬において顕著であったため、海馬のNRG1-ErbB4系について解析を進めた。KLK8欠損マウスではSocial recognition behaviorには差がなく、過去の面識の有無を区別するSocial discrimination behavior (SD)には有意な差が認められた。SDは動物同士が以前面接しているかどうかを区別する社会行動であり、これをNRG1-ErbB4系を介しているか調べるため、NRG1の活性型ペプチドを海馬に両側注入した。その結果、SDを野生型と同様レベルまで回復することができた。このことはKLK8のペプチド分解作用で生ずるNRG1活性型ペプチドがErbB4を含有する海馬のパルブアルブミン抑制ニューロンに作用してSDを生ぜしめることを示している。近年、統合失調症・双極障害・アルツハイマー病にKLK8が関与するという研究が数多く示され、これら疾患の行動異常との関連を議論する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Neurochemistry International
巻: 9 December ページ: in press
10.1016/j.neuint.2017.12.002
Translational Psychiatry
巻: 7(3) ページ: e1052
10.1038/tp.2017.20