研究課題/領域番号 |
16K14600
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 信彦 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 開発研究員 (10525596)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表現型 / マウス / アソシエーション分析 / 評価技術 |
研究実績の概要 |
平成28年度では、マウス変異系統の網羅的表現型データにアソシエーション分析を適用して、表現形質間の有意な相関関係を抽出した。さらに、この相関関係を基に、各変異系統の未知の形質異常を予測するワークフロー、及びこのワークフローに基づいたウェブアプリケーションのプロトタイプを開発した。 第一の研究成果として、世界で初めてマウスの表現型特性間の相関関係のレファレンスリソースを提示した。3,000種類のマウス変異系統の表現型解析結果を基に、オントロジーで501種類の表現型特性に整理し、これらの相関ルールをアソシエーション分析により導出した。解析用のデータには、実験の手技や背景系統を統一した国際マウス表現型解析コンソーシアム(IMPC)のものを用いることで、測定バイアスを排除し、また、相関ルール(関係性)を算出する際には、NAを含まないデータを用いることで、選択バイアスを排除している。本成果のデータリソースは、遺伝子の多面的発現やヒト疾患の病態の理解を深めることに役立つとともに、現在進展しているトランスオミックスの研究分野でのフェノームのリファレンスデータリソースとしての使用が期待される。 第二の研究成果として、本研究で得られた相関関係を基に、各変異系統の形質異常を予測するアプリケーションのプロトタイプを開発した。このアプリケーションは、最高レベルの確度を持つ表現型間の相関関係をもとに開発されたものであるから、変異系統の未検査の形質異常の高精度な予測が可能となった。具体的には、各変異系統で未検査の表現型の数値(割合)での予測、及び発現が予測される表現型のランキング形式での提示が可能となった。これにより、本課題の主たる目的である「表現形質の異常を高精度に検出するためのワークフローの開発」の一事例が提示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主たる目的は「表現形質の異常を高精度に検出するためのワークフローの開発」であり、上述したように、現在までに、その一事例を提示することができた。さらに副産物として、マウスの表現型特性間の相関関係のレファレンスデータが提示され、当初の予定よりインパクトの大きな成果を得ることができた。 想定以上の成果が得られた一方で、主としてマーケティングで用いられているアソシエーション分析といった手法を、表現型間の相関関係の抽出に適用した際、support(支持度)、 confidence(確信度)、 lift(リフト値)といった一般に用いられている指標のみでは、有意な関係性を提示したり、関係性を深く考察するには不十分で、新たな指標を創出する必要が生じた。加えて、ここで得られた有意な表現型間の相関関係を、各種指標の様々な条件下で提示可能な可視化(アプリケーションの開発)が必要となった。これらを実現したことで想定より多くの時間を要し、次年度に予定されている解析が時間的制約を受けることになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、本研究課題の副産物としてマウスの表現型特性間の相関関係のレファレンスリソースを提示することができた。平成29年度では、これらの成果を論文発表とともに、Webアプリケーションとしての公開を検討している。また、当初の予定通り、個体単位で多項目の形質データに注目することで、従来のグループ間(変異グループと対照グループ)での検定で見逃されてきた表現型異常を検出可能な手法を開発する予定である。さらに、本課題で創出された新たな「異常」の評価法に基づく異常形質をインターネット上に公開するとともに、これら変異系統に対して既知のヒト疾患情報を付与することで、ヒト疾患のモデルマウス候補系統を高確度に選出する手法の開発を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿に係る経費を算出していたが、投稿予定を平成29年度に変更したため。この変更は、平成28年度では想定以上の成果が得られたが、データの解析やアプリケーションの開発に想定より多くの時間を費やす必要が生じたことに起因する。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の繰越金は、論文投稿に係る経費として使用する予定である。
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