研究実績の概要 |
がんの大部分では染色体の異常が認められ、これは染色体の不均等分配が高頻度に起こること(染色体不安定性)に起因する。しかし染色体分配の重度の異常は致死的であるため、がんと関連する染色体不安定性は細胞の生存を許容する範囲の異常によって起こると考えられる。本研究は、紡錘体上で染色体の動態を制御するモーター分子に着目し、その発現異常と染色体不安定性およびがん化との関連を明らかにすることを目的とする。そのために紡錘体上のモーター分子の発現を変化させた際の染色体分配の異常を、特定の染色体の動態を追跡する手法などにより解析する。平成28年度は以下のような成果が得られた。 1.紡錘体上で機能するモーター分子の染色体分配への関与の解析 紡錘体上に存在するモーター分子(MCAK, KIF4A, HSET, Kid)およびダイニン関連分子(Zw10, p150)をノックダウンし、分裂期の細胞における紡錘体中央への染色体整列の異常を調べた。その結果、いずれにおいても整列異常自体は顕著ではなかったが、整列に要する時間が有意に延長することがわかった。同様の知見がMCAK, HSET, Kidを過剰発現させた場合にも得られた。 2.紡錘体上で機能するモーター分子の異常による染色体不安定性の出現の解析 1.で検討したモーター分子・ダイニン関連分子をノックダウンあるいは過剰発現する条件で、染色体不安定性の出現をa)分裂後期におけるlagging chromosomeの出現頻度、b)間期における微小核の出現頻度、c) chromosome spreadによる染色体数のカウント、により検討した。その結果、lagging chromosome・微小核を持つ細胞が有意に増加し、また染色体数が異常な細胞の増加が認められ、染色体不安定性が出現することがわかった。
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