本研究では、生体防御の第一線のバリアである体表粘液に着目し、粘液中に存在する補体成分の同定とその反応機構を明らかとすることを目標とした。その第一ステップとして、コイの各補体成分に対する抗体を使用したウエスタンブロットにより、コイ体表粘液中の補体成分の存在をタンパク質レベルで明らかとすることを試みた。 まず、Dfは、化学発光基質を用いたウエスタンブロッティングにおいて粘液中には検出されなかった。抗Properdin (Pf) 抗体を用いたウエスタンブロッティングでは、ゲルろ過においてVoid volume ~ 400 kDa に相当するフラクションに、SDS-PAGEの分離ゲル上端にトラップされた抗原バンドがが検出された。抗C7抗体を用いたウエスタンブロッティングにおいても、Properdinの試験と同様のゲルろ過フラクションに、分離ゲルに進入していない凝集タンパク質のバンドが検出された。 粘液から分画したPfとC7が、血清中とは異なり、ポリアクリルアミドゲルにほとんど進入しないほど大きな凝集物として検出される原因を調べるため、N結合型糖鎖の存在をLectin-Blottingで検討したが、ConAに認識されるような糖鎖は検出されなかった。次に、粘液から調製した泳動サンプル中のPfやC7が、SH基の再酸化によって凝集している可能性を検討するために、Alkylation assay を行ったが、泳動パターンに変化は見られなかった。 血清中ではそれぞれ約49 kDa、約100 kDaのポリペプチドとして検出されるPfとC7が、粘液から調製すると遥かに大きなサイズの凝集物として検出された。この異常なサイズを示す原因を検討したが、多量の糖鎖付加やSH基の再酸化による凝集では説明できなかった。両成分ともに、粘液中では未同定の高分子と強固に結合しているのかもしれない。
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