研究課題/領域番号 |
16K15065
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
大手 学 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20386717)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ボルバキア / ショウジョウバエ / Sex-lethal / nanos / RNA / TomO |
研究実績の概要 |
共生細菌ボルバキアはキイロショウジョウバエ性決定因子Sxl変異体の雌生殖幹細胞の異常を回復することを明らかにしていたが、同様の効果を持つ申請者らが同定したボルバキア因子TomOの、その詳しい作用機構の解明を目指した。(1)TomO強制発現によりSxl変異体での生殖幹細胞の減少が阻止されるが、TomOを複数ある生殖幹細胞の1つのみで発現させるモザイク解析を行ったところ、幹細胞の未分化状態の維持に働くpMadが6倍に増加していた。(2)nanos変異体ではボルバキアによる生殖幹細胞の増加が起こらないことから、ボルバキアの作用にはnanosが必要であることがわかった。(3)ボルバキア感染生殖細胞では非感染細胞と比較してNanosの量が増えていた。(4) C末端側の疎水性領域を欠くTomOの強制発現でもNanosが増加するが、この時、翻訳抑制因子Cupとnanos mRNAの結合が阻害されていた。(5)抗TomO抗体を作製し、ボルバキアが発現する内在性TomOの発現パターンを観察した。ボルバキアに感染した胚に抗TomO抗体をインジェクションした後、抗体の分布を調べたところ、ボルバキア細胞の表面に検出された。このことから、TomOはボルバキアにより分泌され、ボルバキア細胞上に局在することがわかった。また、内在性TomOはRNA結合タンパク質複合体P bodyに隣接することがわかり、強制発現したC末端側の疎水性領域を欠くTomOの発現パターンと類似していた。(6)ショウジョウバ初期胚においてボルバキアwMelは後極に集積し、nanos mRNAに近接していた。この時、TomOとnanos mRNAは共局在した。抗TomO抗体とDIGラベルnanosアンチセンスプローブに対する抗DIG抗体を使ったPLAによって、TomOとnanos mRNAが相互作用していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ボルバキアタンパク質TomOが宿主生殖幹細胞の異常を回復する仕組みについての詳細を明らかにした。特に、TomOが標的であるnanos mRNAを制御するメカニズムを解明した。また、抗TomO抗体を作成しボルバキアが発現する内在性TomOの検出に成功した。内在性TomOとnanos mRNAの相互作用も確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
ボルバキアはRNA結合タンパク質複合体P bodyと共局在することが知られていたが、それらの相互作用の鍵となる可能性があるTomOを同定し、機能解析を進めてきた。今後は、ボルバキアと、宿主のRNA結合タンパク質、RNAの相互作用の分子的な仕組みを明らかにすることを目指す。主に、ボルバキアによって引き起こされる現象がRNAの制御に起因する可能性について検討する。自然界でキイロショウジョウバエに感染するボルバキア系統wMelを別種のオナジショウジョウバエに移植した系統では、ボルバキアが異常増殖し、卵のDorsal appendageに奇形が見られる。我々は、同系統では卵母細胞の形成異常(DNAの形態、Egg chamber内での位置、分化の異常)を確認しているが、TomOの強制発現でも同様の現象が誘発される。そこで、このボルバキアによって誘導される異常がRNAの制御不全による可能性について検討する。卵母細胞は哺育細胞から輸送されるRNAによって分化、成長するが、これらRNAの局在、翻訳制御がボルバキアによって撹乱されてるか否かを調べる。特に、卵母細胞の分化、成長に関与するorb, grk RNAに注目する。 ボルバキア感染細胞ではRNAウイルスの増殖が抑制されていることが知られているが、その詳しい仕組みは明らかとなっていない。我々は、ボルバキアがRNAとタンパク質の結合を阻害することを示したが、同様の仕組みでウイルスRNAが制御されている可能性について検討する。ウイルスRNAと結合する宿主タンパク質には、ボルバキアと共局在することがわかっているものも存在する。そこで、それらRNA結合タンパク質をウイルスRNAの相互作用が撹乱されている可能性について、ヒトスジシマカ培養細胞と単回感染性デングウイルスを用いた実験により検討する。
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