研究課題
前年度は、主にin vitroの検討を行い、培養骨髄由来間葉系幹細胞がラミニン (LM) 511に対して、強い接着活性、増殖活性を示すことを明らかにした。この結果をもとに本年度は、in vivoでのLM511移植の効果について検討を行った。アテロコラーゲンシートに細胞外基質を含浸させ、急性心筋梗塞モデルラットの心臓に移植し、経時的に組織学的解析並びに機能的評価を行った。1) 組織学的解析;移植4週後、LM511群では間葉系幹細胞と思われる細胞、ILB4陽性の血管内皮細胞、ILB4・SMA共陽性の成熟している血管が顕著に増加し、移植8週後では、それらの数はさらに上昇傾向を示した。組織の線維化に関しては、移植4週後、LM511群ではコントロール群に比して有意な抑制傾向が認められ、8週後では、その線維化抑制傾向はさらに進行していた。また、移植4週後では、コントロール群に比してLM511群の血管新生関連サイトカインのRNA発現が有意に上昇し、8週後になると、それらの遺伝子発現はさらに上昇していた。この結果は、免疫組織染色法によるタンパク質レベルでの発現でも同様の傾向が認められた。2) 機能的評価;コントロール群では、経時的にEF値は顕著に低下したのに対し、LM511群では有意なEF値の上昇が認められた。本研究では、細胞を用いずに体内の自己再生能力の向上を目指した新規治療法「自己組織再生型インプラントデバイス」の開発につなげることを目的としている。この新規治療法は、比較的シンプルな手術により患者への提供が可能となり、汎用性が高いと考えられる。これまでに示した結果から、急性心筋梗塞モデルへのLM511移植は、幹細胞の接着を促進し、病変部での血管新生に影響を与え、組織線維化を抑制すると共に機能改善に寄与する可能性が示唆された。これは、心不全治療における新しい可能性を見出すものであった。
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