本研究の目的は、これまで合意形成が困難とされてきた地域に焦点をあて、賛成・反対の対立を越えた合意形成をなしうる公共圏の形成が可能かどうかについて探求することであった。コロナ禍で現地調査が叶わなかった令和2年度は、最終年度にあたることもあり、これまで中心的に進めてきた原子力関連の問題をかかえる地域、リニア新幹線の開発問題を抱える地域での調査をまとめたうえで、地域における合意形成の場の構築可能性について、成果の公表を中心に研究を進めた。その内容は以下のとおりである。 (1)論文の発表:本研究を構想するきっかけとなった調査の主体である民主教育研究所刊行の雑誌『人間と教育』107号において、論文「気候変動を緩和しうる持続可能な社会を考える――森林破壊の問題の「環境正義」による分析をふまえて」を公表した。これは、地域における合意形成の阻害要因のひとつとなっている経済システムのありかたを、世界的な視点から考察したものである。 (2)科研費研究の最終成果報告集(冊子)の刊行:2021年3月18日に、5年間にわたり遂行してきた本科研費研究の集大成ともいえる最終成果報告集を冊子として刊行した(B5版・全161頁)。拙論文「地域における議論の場の形成に資する視座の探求――困難な課題に向き合う地域での取り組みに着目して」や、地域の方がたへのインタビュー記録に加え、本研究課題の目的、研究期間内における成果の一覧も掲載した。 以上の研究から、地域のなかで住民自身が語らいながら未来の方向性を探っていく場を構築するにはどのような視点が必要かという点について、他の研究分野の研究者や市民のかたがたとの意見交換をふまえつつ、生活世界に暮らす住民の目線から思想的に探究することができた。また、研究の成果をひろく社会に発信することができた。
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