研究課題/領域番号 |
16K16308
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鎌滝 晋礼 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60582658)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 科学教育 / アクティブラーニング / アクティブラーニング型授業 / 演示実験授業 / プラズマ科学 |
研究実績の概要 |
本研究は、基礎教育から専門教育をつなぐ新しい実用的プラズマ科学実験教材の開発を目的に研究を行っている。理工系学部学生にとって物理系科目における基礎教育と難易度の高い専門教育の内容のギャップは大きく、理解度・習得度が低いという問題がある。プラズマ科学は、力学、電磁気学、光学など様々な分野が融合しており、プラズマという教材をうまく使うことができれば、このギャップを埋めることが可能と考えている。そこで、教育効果のある実用的プラズマ科学実験教材の開発を行ってきた。平成29年度は【電気と磁気】【原子】【光】の分野に関連するプラズマ装置を作成した。 放電管とコイルを組み合わせた装置や、放電管の発光の様子を分光器で確認することで光と色の関係を学ぶ装置や、簡易コヒーラ装置や、ろうそくに電場を印加する装置などを作成した。これらの装置を用いて、大学1年生が受講する物理学(電磁気学)の授業等複数の授業において活用した。通常の知識伝達型授業の後半に本研究に開発した装置を活用した協働学習を導入するアクティブラーニング型授業を展開した。そして、開発した装置の教育効果及び授業における実験装置の活用方法や授業全体のデザイン等を含めて検討した。協働学習の手法として相互作用型演示実験を参考にした。このようなアクティブラーニング型授業を行うことで、電磁気学の学生の理解度の向上だけでなく、授業前後の質問紙調査結果から、学生が、授業を通して物理現象との繋がりを意識でき、電磁気学について深く考え、理解を深めることができていることがわかった。力学と違い、運動が見えづらい電磁気学の内容をプラズマという目に見える発光現象をうまく利用することで、学生の理解度が高まったと言える。また、相互作用型演示実験授業というアクティブラーニングを取り入れることで、学生同士の議論から、深く物事を考えることにもつなかったと示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの本研究の達成度は、当初の計画以上に進展している。 平成29年度は、(1)プラズマに関連する装置を多く作成した。例えば、静磁場における荷電粒子の運動についての理解を深めるための放電管とコイルを組み合わせた装置や、アルゴンや酸素などのガスが充填された放電管の発光の様子を分光器で確認することで光と色の関係を学ぶ装置や、電磁波の特性を学ぶための簡易コヒーラ装置や、プラズマ(イオンや電子のかたまり)の特性を理解するためろうそくに電場を印加する装置などを作成した。 (2)理系学部学生の多くが受講する初年次の物理学(電磁気学)の知識伝達型授業に、本研究において作成したこれらの装置を活用した授業展開を開発した。(3)そして、この授業(アクティブラーニング型授業)を教育工学、教育心理学的観点から、定量的且つ定性的教育効果を測定した。(4)この結果から、本研究において作成したプラズマに関連する装置は、学生の電磁気学の理解を深めるだけでなく、ほかの物理現象に対するつながりを意識させることができた。これらは、他の授業の経験と知識を結びつけて考えることができていることを指し、深い理解に繋がっている。また、学生の意識調査において、授業内容に対する[面白さや楽しさ]や[批判的思考態度]などの意識が上昇していることを明らかにした。また、通常の座学のみの授業と比べて、本研究の装置を活用した授業の方が、試験の点数も向上した。また、スコアリングルーブリックという手法を用いて、学生の理解度を評価した結果、本研究における授業の方が、格段に高いことがわかった。 このように実験装置の有用な活用方法も開発することができていることから、当初の計画以上に進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、プラズマに関連する装置開発だけでなく、実験装置を用いて、電磁気学の授業において多くの教育効果のある授業展開の一つを確立した。平成30年度は、これらの授業展開を他の授業においても適用し、授業における学生の意識の変容を定性的定量的に評価解析し、また、試験結果にもどのような影響を与えるのかについて調査する。これらのことをしっかりと調査することで、大学において大部分の授業形態である知識伝達型授業に科学実験・実験装置を導入した新たな且つ教育効果の高い授業展開の根拠をしっかりと集める。また、平成29年度は対象学生が初年次学生であったが、平成30年度は専門教育(3年生を予定)の学生を対象にした実験授業において、本研究において獲得した知見を有効に活用して、プラズマ科学のみならず、プラズマに関連する学問を複合的に理解できる授業展開及び装置改良を行う。このように、本研究成果を他授業へ適用拡大を行い、学会・論文発表を行うことで、大学教育における科学実験の知識伝達型授業への適用の有用性や、その方法などを発信する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の実験装置使用計画に対して、様々な工夫等を行うことで予定よりも少ない額で実験装置を作成することができた。余剰金をさらなる研究遂行のために、装置の改良のための物品費や研究成果発表のための旅費や論文の印刷代に使用する。
|