研究課題/領域番号 |
16K16343
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館 |
研究代表者 |
大傍 正規 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, その他部局等, 主任研究員 (40580452)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | デジタル復元 / アナログ復元 / 再タイミング / 現像所 / 色再現 / LUT / 可燃性フィルム / 映画フィルム |
研究実績の概要 |
東京国立近代美術館フィルムセンター(NFC)が、平成27年度に実施した二色式カラー映画『千人針』(三枝源次郎監督、1937年)のデジタル復元に際し、株式会社IMAGICAのカラーマネジメントアドバイザー・長谷川智弘氏の協力を得て、二色式カラー映画では生成不可能な色域を特定した上で、カラーグレーディング時にその領域を採用しないように制限を加える手法(制限LUT=Look Up Table)を取り入れたが、今年度は、同じ二色式カラープロセスで作成されたNFC所蔵可燃性カラーポジ『李王垠殿下大阪偕行社小学校御訪問[仮題]』(1940年)に対する分光分布の調査を実施し、制限LUTの精度向上に取り組んだ。その成果は、国際フィルムアーカイブ連盟の機関誌「Journal of Film Preservation」の最新号(96号)に論文が掲載されることが決定する等、映画フィルムを物質的に解析し、それをデジタル復元に直接活かそうとするアプローチが、有効な手法となりうることが証明された。 また、NFC技術職員が現役時代にタイミングを担当した『時をかける少女』(大林宣彦監督、1983年)について、当時実際に撮影を担当された阪本善尚カメラマン立会いのもと、現像所の現役のタイミングマンに技術的助言を行いながら、全574カットについて、再タイミング(現在入手可能な機材で、映画封切り時の色彩を再現するために、当時のタイミングデータから、新たにデータを作り直す作業)を繰り返すという、NFC初の復元プロジェクトを実施した。その成果は、NFCの上映企画「よみがえるフィルムと技術」(2017年5月)にて、「再タイミング版」として披露されることが確定し、現像所の優れたアナログ技術を後世に継承するとともに、アーカイブされる映画が封切り時の色彩を取り戻すことで、将来にわたり真正な映画体験を提供することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来は視聴環境に応じて、画像データの値を適切な出力値に変換する目的で使用されてきた「LUT」について、今回の『李王垠殿下大阪偕行社小学校御訪問[仮題]』に対する分光分布の調査研究を経て、二色式カラープロセスが表現し得る色域を把握し、その色域内で色調補正を実施するための「制限LUT」という形でLUTを活用する新たな手法が、復元元素材となる映画フィルムの物質的特徴を踏まえたカラー映画の適切な色再現を行う際に、有効な選択肢となることが確証されたため。 また、『時をかける少女』(大林宣彦監督、1983年)の再タイミング版の作成を通じて、映画完成時のタイミングマンと、撮影カメラマンの両者で、映画封切り時の色彩が、現在入手可能な機材類等で再現できることが証明されたため。この再タイミング版は今後、フィルム・ルックを生かしたDCP作成や、デジタル復元時のリファレンスとしても役立てられるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
①初年度に引き続き、映画フィルムの物質的調査と、綿密な資料調査を組み合わせたデジタル復元に取り組む(今年度に実施した、貴重書『パテ社の生フィルム:現像及び焼き付けの手引き』(1926年)に同封されているコマ帖の保存科学的分析を活用した復元の実施を検討する)。 ②国内の現像所において、NFCの技術職員である元タイミングマンが現役時代にタイミングを担当した作品について、当該作品の撮影カメラマン立会いのもと、封切り当時の狙い通りの色彩を再現するアナログ復元の有効性が確認されたことから、今年度も新たに1作品を選定したうえで、再タイミング版の作成を行う。さらに今年度は、この新たに作成される再タイミング版をリファレンスとしたDCP作成にも取り組む予定である。 ③平成29年5月5日から7日にかけて、ジョージ・イーストマン博物館で開催される可燃性フィルム上映会「Nitrate Picture Show」に参加し、可燃性フィルムを映写した際の色味を実見・記録することで、NFCが所蔵する可燃性フィルムの不燃化およびデジタル化をする際の参考とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の見込みと実費との間でわずかな誤差が生まれたため。
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次年度使用額の使用計画 |
調査研究用の書籍購入費等に充てる。
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