研究課題/領域番号 |
16K16366
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
河本 尋子 常葉大学, 社会環境学部, 准教授 (10612484)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生活復興 / 生活再建 / 災害 / エスノグラフィ調査 / 被災者の心理 / 東日本大震災 / 意思決定 |
研究実績の概要 |
本研究では、災害発生後の被災者のすまいの再建に着目し、そこに至る過程の詳細を把握することにより、最終的に、災害からの生活復興過程における被災者の意思決定に係るメカニズムの解明を目的としている。平成30年度研究実績では、東日本大震災を事例に、災害からの生活復興過程における生活再建7要素の時系列的変化と関連するポジティブ・ネガティブ感情の変化を明らかにした。 震災後1週間が経過した頃より、居住形態の違いに関わらず、「つながり」を活用した新生活への適応がみられていた。居住形態とは、具体的には、自宅再建済・借上仮設居住・プレハブ仮設居住(以下、それぞれG1・G2・G3)の3つである。 次に、震災から1ヶ月後以降に、G1・G2の語りに「こころとからだ」「くらしむき」の内容が出現した。そして、この時期におけるG1の最大の関心事項は、家族に関連する「つながり」であり、その強化・結束が、後の「すまい」の関心の高さにつながっていたと考えられる。他方、G2では「すまい」が、G3では地域の「つながり」がそれぞれ重要とされていた。 震災から半年から1年程が経過すると、G1の「くらしむき」が改善したことにより「すまい」の課題解決に進んでいた。1年2ヶ月以降では、G1は新居の地域における「つながり」を得ており、これが「こころとからだ」「くらしむき」のポジティブ感情に関連していることが考えられる。しかし「つながり」に関する感情をみると、時間経過と共に、特に地元の「つながり」に対するネガティブ感情が増加していた。一方、G2ではこの時期に依然として「こころとからだ」の課題を抱え、居住地域に対するネガティブ感情の形成に関係していたと考えられる。他方、G3では従前からの「つながり」を大切にしながら「くらしむき」の厳しさが増し、ネガティブ感情が増加していた様子が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者の産前・産後・育児等休業の取得により、本研究開始に遅延が生じることとなったが、研究再開後(研究開始から)2年目の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると認識している。 その理由としては、次の2つが挙げられる。第一に、継続的に調査対象地域におけるエスノグラフィ調査を実施して、データの収集・蓄積を行っていることである。具体的には、東日本大震災の被災地域のうち、本研究では、主に宮城県を対象としている。そして第二に、収集データのテキスト化の進捗も順調であり、適宜データ収集と並行して、データのテキスト化およびその内容分析をおこなっていることが挙げられる。 今後においても、データの収集・蓄積を継続して行うが、データのテキスト化とともに内容分析を順次進めることとし、調査協力者へのデータフィードバックおよび分析結果の共有・改良を図る予定である。また個別の分析結果を用いた全体像把握と、その成果をふまえた実務者による検証ワークショップを本研究計画の最終年度に実施し、実務に即した成果の客観性の確保を図る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究実績では、エスノグラフィ調査の対象は、主に、自宅再建済み、借り上げ仮設住宅居住、プレハブ仮設住宅居住という3つのグループに属する被災世帯群であった。災害後の被災者の居住先の移動について、これまでのさまざまな事例を考慮するならば、自宅再建およびプレハブ仮設住宅への居住は、災害の種類を問わずに発生する形態だといえる。また、東日本大震災における応急仮設住宅供与の特徴として、大量に供給された借り上げ仮設住宅に居住する被災者の分散居住が挙げられ、本研究では、その特徴把握も不可欠であったと考えている。したがって、災害における被災者の生活復興過程への影響要素の解明には、上述のように、これらの3グループに属する世帯群を調査対象とすることは重要だったと考えられる。 今後においては、これまでの調査対象に含まれていなかった、在宅避難を経て自宅修繕をおこないながら、災害発生後も継続して自宅に居住している世帯群を対象に加える必要があると考えている。在宅避難した被災世帯は、生活再建支援制度を利用後には、制度上は生活再建が完了したとみなされる。それゆえ、制度利用後の在宅避難の被災世帯に関して、その生活実態は十分に把握されておらず、その生活復興過程についても未解明となっている。本研究の目的達成には、被災地域における住民の生活復興について、さまざまなケースを網羅的に把握していくことが重要であると考えている。以上の理由から、今後の研究の展開では、在宅避難の被災世帯群の生活復興過程のデータ収集・蓄積・分析をおこなうこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者の産前産後休業および育児休業等の取得により、当該研究を一時中断したため、研究計画の開始に約1年10ヶ月程度の遅延が生じ、その結果次年度使用額が生じた。 今後の使用計画としては、基本的には研究開始から2年目の計画にしたがって遂行する予定である。具体的には、対象とする災害事例の被災者に対する継続的な定性調査を行い、詳細なデータの収集・蓄積を図る。また、これと並行して、災害からの生活復興に向けた諸課題に対応する意思決定過程の内容分析を進め、同過程に影響を及ぼした諸要因の特定・抽出をおこなっていくこととする。調査協力者に対するフィードバック・分析結果の共有についても適宜実施し、分析結果の改良をおこなっていく。
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