本研究は、災害からの生活復興に向けた被災者の意思決定の過程と影響要因の解明を目的とした。分析の結果、総じて、災害発生直後には他者とのつながりが最大の関心事であり、1週間後にはそれを活用して生活に適応していた。1ヶ月以降には、心身およびくらしむきの内容が出現していた。この時期に、プレファブ仮設住宅居住世帯では地域のつながりが、借り上げ仮設住宅居住世帯ではすまいが、それぞれ重要視されていた。その後、自宅再建世帯ではくらしむきの改善によってすまいの課題解決に進み、災害から1年後には新しい地域のつながりを構築していたのに対し、プレファブ仮設住宅居住世帯は従前のつながりを大切にしながら、くらしむきの厳しさが増していた。また同時期に、借り上げ仮設住宅居住世帯に特徴的な心身の課題が明らかになった。 さらに長期的な生活復興の視野に立った、在宅避難・在宅被災世帯を対象とした分析では、自宅の再建や修理の完了状況にかかわらず、震災から9年を経て、何らかの見捨てられた感覚を持っていた本研究対象の傾向が明らかになった。災害発生直後には、自ら必要情報を収集しながら、自力による生活立て直しの判断・意思決定に注力していた。災害発生直後には地域のつながりによって困難な状況を乗り越えられたが、年月を経て被災地域の環境の変化とともにそのつながりが変化した。そのような状況下、生活復興に向けて自力再建を念頭に決断・行動する中で、厳しいくらしむきや健康上の問題、行政への不満や不安等が重なり、同過程を通して経験・蓄積された身体・精神的負荷が影響して心身に不調が現れ、周囲から見捨てられた感覚につながっていた。但しこうした負の感覚が、重要な他者とのつながりによって変化し、自力ではなく誰かを頼ってもよいという価値観に変容したケースもみられた。
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