本研究では、高空間分解能の地震波トモグラフィ等によって日本列島における地殻流体の詳細な流体分布を推定し、内陸地震の分布・発生様式との関連性を見出すことで、地殻流体の分布を指標とした未知の活断層による地震災害リスク評価の可能性を見出すことを目的としている。国内で発生した内陸地震や活断層の周辺における地震波速度構造と比抵抗構造を推定した結果、逆断層型の内陸地震である2014年長野県北部地震の震源域では、震源断層に沿ってその下位に地殻深部を起源とする流体が分布する傾向が認められた。この特徴は、1962年宮城県北部地震等といった逆断層型の地震活動域と同様である。また、正断層である征矢原断層下の下部地殻にもマントルを起源とする流体が分布することが明らかになった。さらに、伏在断層の活動の関与が指摘されている松代群発地震(1965年~1967年)の活動域においても、マントル最上部から地表付近に流入する流体の存在が認められた。その流体分布域は、上部地殻では鉛直に延びる柱状を呈するが、それは二つの共役な横ずれ伏在断層の交差部に位置し、且つ断層に沿う開口クラックが発達した領域に相当することをS波偏向異方性の推定により明らかにした。以上の成果は、内陸地震の発生や断層の形成に地殻深部の流体が関与した可能性を示唆する。また、特に逆断層や横ずれ断層では特徴的な流体分布の傾向が見られたことは、その分布が未知の活断層の存在を評価する上で有効な指標となり得る可能性を示唆すると考えられる。
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