視聴覚メディアによるパフォーマンスの表象研究を行うにあたり、最終年度にあたる2018年度は、これまで行ってきたライブ性、音響メディア、劇場に関する研究をふまえ、(1)戦前のラジオ・ドラマにおけるライブ性、(2)現在の映画館におけるライブ中継上映の二点から研究を行った。
(1)パフォーマンス・スタディーズにおける「ライブ性」をめぐる議論を踏まえ、戦前の日本のラジオ・ドラマにおいてライブ性がいかに形成されていたのかについて研究を行った。この成果は、表象文化論学会の全国大会において1930年代初頭の弁士が出演する映画のラジオ・ドラマ化番組を題材として口頭発表を行い、当時のラジオ・ドラマのライブ性が新聞におけるラジオ欄などの文字媒体や、スポーツの実況中継における観客性と相関しながら形成されていたことを明らかにした。また、戦前の日本における映画のラジオ・ドラマ化の様相については、早稲田大学20世紀メディア研究所の研究会で発表し、同研究所が発行する雑誌『インテリジェンス』に論文を投稿した。 (2)現在のメディア環境における「ライブ性」を考察するため、日本ではライブ・ビューイング(英語圏ではイベント・シネマ)の名称で主に知られる、演劇や音楽などのパフォーマンスを映画館でライブ中継または録画上映する事例を取り上げた。映画館におけるライブ・ビューイングを映画史と放送史の接点として位置付け、現在普及しつつある応援上演などの参加型の上映形態との相関性を指摘した発表を、米国シアトルで開催された映画メディア学会(SCMS)の年次大会で行い、海外の研究者と意見交換を行った。
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