2022年度には、主にアン・ブロンテに関する作品、ブロンテ三姉妹の二人以上に関連する作品の分析を予定していたが、2021年度までに進めていたアンジェラ・カーターの『夜ごとのサーカス』とシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』の比較考察に、さらなる発展を期待できることが判明した。カーターは英文学史において重要な女性作家の一人であるため、『夜ごとのサーカス』に関する考察は優先すべき課題であると判断し、この作品が『ジェイン・エア』に影響を受けた可能性を示す側面をさらに詳しく分析することに注力した。この成果の一部は、日本ブロンテ協会関西支部2023年大会にて発表した(2023年3月)。 また、2022年度には、エミリ・ブロンテの『嵐が丘』における「記憶」について発表する機会を得た(日本ブロンテ協会2022年大会シンポジウム、2022年10月)。2021年度に発表した論文では、ダイアン・セッターフィールドの『13番目の物語』において『嵐が丘』と『ジェイン・エア』は「過去」を象徴すると論じたが、この発表では『嵐が丘』における「過去」の「記憶」を論じ、『嵐が丘』と「過去」について認識を深めた。「過去」は『嵐が丘』において中枢をなすテーマである。発表後には、「過去」が『嵐が丘』と『13番目の物語』を繋ぐ重要なテーマとなりうることをあらためて考察し、成果を得た。 アン・ブロンテに関する作品については、その評価と作品数の少なさ、時間の制約から取り上げない判断をしたが、英国の女性作家たちが、1945年以降、シャーロットの『ジェイン・エア』とエミリの『嵐が丘』を、様々な角度から、その時代に応じた形で捉えて作品に取り入れたこと、また、これら二作品に、それを可能にする普遍性と特殊性があることを、研究期間全体を通じて明らかにすることができた。これが本研究の成果である。
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