平成28年度は、約款規制に関する基礎事情の分析という、研究課題と関連した研究報告を、日本私法学会のワークショップ(於:東京大学)で行った。この報告は、効率性と自由という二つの価値の対比をもとに、このそれぞれの価値という無体的なものと、裁判上認定できる様々な現象という有体的なものとの繋がりを分析し、この分析をもとに、約款規制に関する最高裁の一裁判例において現れ重視された現象から、重視された価値は何かを探り出す試みである。当該報告は、二つの点で新規性を持つ。第一に、効率性と関係する現象を、自由と関係する現象と、截然と切り分けたことである。この切り分けが重要である理由は、たとえば、自由主義的経済政策が効率性の増大にも自由の増大にも資することに表れているように、現象面での選択肢の増大は、価値としての効率性と自由の両面と関係しているからである。第二に、第一の点で切り分けた自由のみと結びつきうる現象が、取り上げた裁判例では重視されていないことを示したことである。これにより、効率性の増大と結びつく限りでしか、自由は最高裁で重視されていない可能性を、示すことができた。こうした報告に基づいた原稿を、雑誌「私法」に寄稿しており、平成29年度中には公刊される予定である。 さらに、行動経済学と法学との関係につき概説した論考を、雑誌「ビジネス法務」に寄稿しており、これも平成29年度中には公刊される予定である。この論考は、研究課題と関連するアメリカ法での行動経済学の法学への受容状況を概観し、これを紹介したものである。そして、当該論考は、約款の経済分析にとって重要な、行動経済学の法学的応用の際の留意点を示すという意味がある。
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