研究課題/領域番号 |
16K17036
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (90633470)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 居所の決定 / 身体の自由 / 障害者権利条約 / 自由剥奪セーフガード |
研究実績の概要 |
本研究は、判断能力が不十分な成年者が、医療やケアを受けるためにその身体の自由に関連する何らかの決定を受ける必要性が生じた場合に、一方でその者の「安全」を最大限に確保しつつ、他方で「自律的な個人として尊重される」という基本的人権に対する侵害を最小限にとどめるためには、どのような法的システムを整備しなければならないかを検討し、提言を行うことを目的とする。 そのために、(1)既にそのようなシステムを有するイギリス法(2005年精神能力法)を参考にするとともに、(2)2014年に批准した国連障害者権利条約が、障害者の身体の自由に関して、どのような法的保障を要求しているかを明らかにする。(1)および(2)の研究によって得られた知見を踏まえて、(3)わが国が将来、判断能力が不十分な成年者の身体の自由に関する決定が行われる際に導入すべき適正手続のあり方を検討し、立法モデルを示すことを目的とする。 2016年度は、①2014年に実施された2005年精神能力法の立法後調査および②それに対する政府意見書を手掛かりに、現行法に対して指摘される問題点を探った。 また、障害者権利条約のうち、本研究課題と特に関係のある12条及び14条について調査した。①12条は、判断能力が不十分な成年者の意思決定制度のあり方として、従来の「代行決定型」から「支援型」への転換を求めるものと言われている。本条については、条約が要求する「支援型」の制度とはいかなる特徴を備えたものと考えられているのか、国際法上の議論を踏まえて検討した。②14条は、障害者が恣意的に自由を奪われない権利を有することを確認し、国家に対して不当な自由の剥奪から障害者を保護するための法的手続きを用意することを義務付ける。本条についても国際法上の議論を調査し、どのような法的手続きの整備が求められているかを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書において予定していた通り、①イギリスにおける2005年精神能力法立法後調査および政府意見書を手掛かりに、イギリス法の抱える問題点を明らかにし、②障害者権利条約12条及び14条についても検討することが出来た。これらの点については、2016年11月に開催された日本家族<社会と法>学会大会若手セッションにおいて報告済である。また、近く刊行予定の同学会誌に原稿を提出している。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、前年度の調査において明らかにした現行法の問題点を克服するために、イギリスにおいて提案されるであろう種々の解決策を明らかにする。2017年現在、当初の予定より半年遅れて、法律委員会が作成した報告書が公表された。報告書を精査するとともに、現地に赴き直接資料収集をする予定である。 また、香港中文大学のZou教授と共同研究を実施する。中国においては、他に類を見ない速さで高齢化が進んでいるが、その社会において高齢者ケアがいかなる法律によって規律される必要があると考えられているのか、共同研究を通じて最新の議論を調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定していたよりも図書購入にかかる費用が抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度使用しなかった額は、計画書作成段階では予定していなかった香港中文大学のZou教授との共同研究に充てる予定である。
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