研究課題/領域番号 |
16K17036
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (90633470)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Mental Capacity Act 2019 / 自由剥奪セーフガード / 自由の保障のためのセーフガード / 障害者権利条約 / 成年者の医療・ケア / 地域包括ケア |
研究実績の概要 |
【課題A】イギリスの改正法案の研究 昨年度の研究において、イギリスの法律委員会が2017年3月に刊行した最終報告書の内容を明らかにしたが、今年度は、この報告書に対して2018年3月14日に政府が公表したレスポンスを入手し、中身を検討した。その結果、政府は自由剥奪セーフガードに代わる新しい制度(Liberty Protection Safeguards, LPS)を導入することを決定したことがわかった。LPS導入に当たって、とりわけ大きな改革が必要となるのは、かねてから運用上大きな課題であるとされてきた精神保健法上の強制入院手続きとの関係である。政府は、同意能力を欠くために非自発的なケアが必要となる者に対しては、精神的治療と身体的治療とを問わず、一つのスキームの上で入院の手続きがなされるべきであるという立場を採用した。わが国は、精神治療の場面にしか非自発的入院手続きのためのセーフガードが存在しておらず、患者が身体的なケアを必要とする場面については特に論じられてこなかった。イギリスが当初、治療の性質に応じてセーフガードを分けていたもののうまく機能しなかったという事実は、これから制度構築を目指すわが国にとって非常に示唆的である。 【課題B】障碍者権利条約12条に関する研究 国連障害者権利委員会に提出された各国のレポートを調査し、特に本研究テーマに関連するところの、障害者の法的能力の平等を保障する条約12条について、締約国の履行状況を分析した。その結果、67の地域または国のうち、58が12条を満たしていないとの判定を受けた。その他の9カ国も完全に条約を満たしているとの評価は受けておらず法改正への姿勢が評価されるにとどまっているが、カナダは本人が法的能力を行使するためのサポートを受けられるような枠組みを構築している点でポジティブな評価を受けていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題A】イギリスの改正法案の研究 2018年度は、研究計画のとおり引き続きイギリスの法改正の動向を追うことができた。9月にはカーディフ大学よりフィリップ・フェネル教授を招待し、2回の講演会にわけてそれぞれ自由剥奪セーフガードについて、および精神保健法の改正について最新の議論を紹介していただいた。その講演内容については、2019年末に刊行予定である。 【課題B】障害者権利条約12条に関する研究 国連のレポートの中で特に評価の高かったカナダに赴き資料収集を行った。オンタリオ州の法律委員会が2017年3月に「法的能力と後見制度」に関する最終報告書を公表しており、次年度はその中身について明らかにする予定である。 【課題C】日本法に関する研究 わが国における地域包括ケアと意思決定支援のあり方に関する研究を遂行中である。権利擁護支援の必要な人の発見と、早期の段階からの相談・対応体制の整備、成年後見制度を含む意思決定支援制度への接続がなされるようになるためには、地域連携ネットワークづくりが不可欠である。本年度は、市町村長による成年後見制度の申立ての意義を分析する中で、利用者と後見制度をつなぐ専門職から構成される中間団体の存在の重要性を明らかにした。この研究成果は、雑誌にて公表済みである。
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今後の研究の推進方策 |
1.外国法から得られる示唆の探求【課題A・B】 判断能力が不十分な者に対して医療・ケアを提供するために、やむを得ず本人の同意に基づかず、その自由を制約するための法的手続のあり方については、イギリスにおけるDoLSの改正状況から得られた示唆をまとめる(【課題A】)。次に、カナダのオンタリオ州の法制度研究を通して、障害者権利条約が締約国に求める「支援型」制度を導入するための示唆を得る(【課題B】)。 2. 実行可能性を確保するための研究【課題C】 要保護成年者の医療・ケアに対して何らかの決定・変更がなされる際に、現在、行政・司法・民間機関がどのような役割を果たしているのか、その実態を調査し、それを踏まえて、各機関に対して将来どのような内容および範囲の職権を認め、義務を課しうるかを検討する。 3.立法モデルの提示・具体的提言【課題D】 上記の研究1および2によって得られた成果に基づき、立法モデルの提示および当該立法を実現するために必要な制度改革に関して具体的な提言を検討し、論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
パソコンの購入を検討していたが、希望の製品が3月までに入手できなかったために次年度に持ち越すこととなった。現在使用中のPCはかろうじて機能しているが頻繁にフリーズするためただちに買い換える予定である。
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