研究課題/領域番号 |
16K17036
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (90633470)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 障害者権利条約 / ソーシャルインクルージョン / 社会包摂 / 成年者の医療・ケア |
研究実績の概要 |
本年度は、【課題B】の障害者権利条約12条および14条に関する研究において進展があった。まず法的能力の平等を規定する12条については、特に2011年に同条約44条に基づいて、組織体として、この条約を批准したEUに焦点を当てた。組織体としてのみならず、2018年にアイルランドが同条約を批准したことにより、現在、すべてのEU加盟国が各々、この条約の要請に従って、判断能力が不十分な者の意思決定支援を行わなければならないこととなった。 本研究においては、①EUにおける成年者保護の取り組み、②加盟国が国連障害者権利委員会から受けた評価、および③「支援型」の意思決定支援の導入に向けた最新の試みを、明らかにすることを目標にした。その結果、アイルランドやオーストリア等、近時は、カナダ諸州の意思決定支援制度を参考にした改正を行う国が散見されることがわかり、「支援型」意思決定支援を実現するために必要であると思われる最低限の要素を明らかにした。 次に、身体の自由および安全を規定する14条については、わが国において、精神障害者が医療やケアの現場で受ける強制的な処遇に対して批判的考察を行った。具体的には、1900年の精神病者監護法における私宅監置に始まり現行の精神保健福祉法の医療保護入院まで続く、家族による精神障害者の自由剥奪について、条約14条の観点からどのような改善が望まれるのかについて検討した。同条は治療の必要性や自傷他害の危険性は、自由剥奪の正当化根拠たり得ないとするものであるが、社会に十分な受け皿がないままでは、退院後、かえって当事者に不利益が生じるため、ソーシャルインクルージョンを実現するために必要であると思われる仕組みについて研究する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.イギリス法から得られる示唆【課題A】 当初は2019年夏にイギリスへの渡航を予定していたが、現地の研究者とのスケジュール調整が必要となり、2020年春の長期休暇を利用することとしていた。ところが、その訪問も新型コロナウイルスの影響により中止せざるを得なくなったことから、予定していた現地の研究機関への訪問ができなくなり、研究に遅れが生じた。 2.障害者権利条約に関する研究【課題B】 【課題B】については、前期の通り予定に従って十分な研究を行うことができた。12条および14条に関するいずれの成果についても、現在校正段階であり、2020年中に刊行予定である。 3.日本法の研究【課題C】 障害者権利条約12条に関連する意思能力についての過去および現在の学説の整理を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1.イギリス法の研究【課題A】 現在、インターネットや本等から得られる資料はほぼ渉猟できており、最終段階にあるが、現地の研究者や実務家からの情報を得ることが困難となっている。この状況が続くようであれば場合によってはテレビ電話等の通信機器を通したインタビューを行う。 2.立法モデルの提示・具体的提言【課題D】 最終年度の今年は、これまでの研究から得られた成果に基づき、立法モデルの提示と当該立法を実現するために必要な具体的提言を検討したうえ、これを論文としてまとめることに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリスへの現地調査を目的とした渡航・滞在費用に充てる予定であったが、キャンセルとなったため。次年度も、現地調査が可能になるかどうか現時点では判断つきかねるが、残額はイギリス法の研究(情報交換費用)に充てる予定である。
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