最終年度である本年度は、在外研究として主にハーバード大学社会学部に滞在しつつ、研究計画を遂行した。 まず、本研究課題は技能形成と不平等を一つのキーワードとしており、とりわけ幼少期に注目した社会階層と就学前教育の選択の関係に注目した研究を行った。この中で、就学前教育の選択のパターンは世代および出身階層によって大きく異なっており、そして両親の学歴、父親の職業、家庭の経済的・文化的資源は、就学前教育の選択とそれぞれ独立した関連を持っていることを明らかにした。 さらに本研究課題は、社会的不平等が生み出される上でのマクロな文脈を重視している。ある制度・政策が維持・再生産されているときに、人々がどのような社会経済的システムを望んでいるかという選好の問題は無視できない。これまでの研究では教育・社会保障政策に対する人々の意識を探ってきた。前年までに積み上げた理論的フレームワークの検討を踏まえつつ、今年度は、高校生の子どもを持つ母親をサンプルとしたパネルデータを用いて、子どもの高校卒業前後における母親の教育政策に対する意見の変化を分析した。 くわえて本研究課題では、パネルデータの分析が成果を出す上で大きな役割の一つを担っている。パネルデータは同一対象を追跡するデザインになっており、対象の脱落が不可避に伴う。それゆえ、脱落が推論に及ぼす影響の検討がしばしば必要になる。これを踏まえ、不平等研究の中心的な変数の一つである収入の推定と脱落の関係について分析した。アメリカの代表的なパネル調査の一つである、Panel Study of Income Dynamicsで蓄積されてきた手法を参考に、日本のパネル調査であるJapanese Life Course Panel Surveyを対象に検討した。
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