研究課題/領域番号 |
16K17237
|
研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
流王 貴義 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (40755948)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | デュルケム / 社会学史 / 近代社会構想 / シェフレ / モンテスキュー |
研究実績の概要 |
2018年度に実施した研究の最も大きな成果は,『デュルケムの近代社会構造――有機的連帯から職能団体へ』の出版である.本書の原型は,2016年度の研究成果である学位論文であるが,出版に際して,その後の研究の進展を踏まえた加筆修正を行っている.具体的には,デュルケムが『社会分業論』と併せて提出した博士副論文であるモンテスキュー論に着目し,『社会分業論』の出版以後,職能団体論として展開されるに至った近代社会構造の萌芽が,『法の精神』の君主政論の読解に存在することを明らかにした. 本書の成果のうち,本研究課題にとって重要なのは,以下の2点である.まず1点目は,国家主導の社会政策に対するデュルケムの批判が,同時代のドイツの社会科学を分節化して理解する視点と連動している点である.ワグナーとシュモラーに代表されるドイツの講壇社会主義に対してデュルケムは,立法に過度の期待を寄せ,国家による上からの介入を偏愛する結果に陥っていると批判しているが,このデュルケムの主張の背後に存在したのは,ドイツにて講壇社会主義を批判していたシェフレの議論である.デュルケムはその学問的キャリアの最初期からシェフレの議論を肯定的に評価しており,『社会分業論』におけるデュルケムの実践的・思考的な問題関心の基盤となっているのは,シェフレであると評価できる. 2点目は,シェフレの社会主義論が,『社会分業論』の後にデュルケムが提示することになる職能団体論にも影響を与えている点である.講壇社会主義に対抗してシェフレの提示した社会主義とは,職能団体の現代的再建により,経済活動の組織化を進めることで,国家の肥大化傾向を抑制すると同時に,自己本位主義の広がりに伴う社会の解体的な傾向を抑制するという構想であった.このシェフレの構想に対して,職能団体と国家との関係を法的に制度化する重要性を加味したのが,デュルケムの職能団体論である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に実施した研究は,『デュルケムの近代社会構造――有機的連帯から職能団体へ』の刊行に向け,専らこれまでに蓄積してきた研究実績を振り返り,その意義を明確化する作業にあてることになった.本書の公刊により,デュルケム社会学の同時代的意義を明らかにするという本研究課題の1つ目の基軸については,ある程度の展望を示すことができた. 本研究課題のもう1つの基軸であるデュルケム社会学の現代的意義については,作田啓一におけるデュルケム受容への着目という昨年度に得られた着想を具体化すべく,前期作田のテキストの分析結果をまとめる作業を行った.この作業を進めるなかで,1960年代の日本における社会学の位置付けを再検討する必要性を意識するに至り,社会学という枠組みを越えた当時の知的潮流の中で,デュルケムの政治社会学の現代的意義を検討する作業にも着手した.この着想を推し進めるために必要な文献等の収集には一定の目途が立った.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,デュルケム社会学の現代的意義を明らかにするため,前期作田におけるデュルケムの政治社会学の受容とその意義に関する研究を推進したい.具体的には,前期作田のデュルケム受容の特徴を,日本社会における集団の位置づけに関する作田の理解を背景として明確化すべく,政治学者の石田雄との関係に注目して分析を試みる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会大会への参加費を見込んでいたが,本務校の個人研究費から執行したため,結果としてその分の旅費が次年度使用額として生じることになった.
|