研究課題/領域番号 |
16K17535
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
須貝 太一 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (20535744)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プラズマエレクトロニクス / 水処理 / OHラジカル / オゾン |
研究実績の概要 |
新しい高度水処理技術として、汚染水にプラズマを当てることで水中の難分解物質を分解する技術が盛んに研究されている。本水処理の主な原理として、プラズマ中の電子が水に衝突することで酸化力の非常に高いOHラジカルが生成され、それが水中の有機物を分解すると考えられている。しかし、最近の我々の研究で、酸素中のプラズマでより多くのOHラジカルが検出されており、そのことからオゾンを介したOHラジカル生成が支配的であることを予測している。平成28年度の研究ではOHラジカルの生成過程を具体化するために、いくつかのプラズマ条件下で生成されたオゾンとOHラジカルの濃度を測定し、プラズマ、オゾン、OHラジカルの関係性を調べた。 オゾンの測定にはインジゴ法を、OHラジカルの測定にはテレフタル酸ナトリウムにOHラジカルをトラップする方法を採用した。また、プラズマは高電圧パルスを線対円筒の同軸電極に印加することで生成し、処理対象水はプラズマ空間に噴霧した。 まず、パルスの単位時間当たりの印加回数をパラメータとし、オゾンとOHラジカルとの関連を調べた。結果として、オゾンもOHラジカルも単位時間当たりのパルス印加回数を増やすことで、処理時間あたりの濃度は増加するが、単位エネルギーあたりの濃度は減少した。すなわち各プラズマ条件に対するオゾンとOHラジカルの濃度変化は同様であった。次に、プラズマを水にあてずオゾンのみを水に供給した場合とプラズマをあてた場合について、オゾンとOHラジカル濃度を比較したところ、どちらの場合でも濃度は一定であった。この結果から、OHラジカルの生成は、プラズマが水に当たることによるものではなく、オゾンと水の反応によるものであると考えられ、現状ではOHラジカルの主な生成過程として、オゾンと水中のOHマイナスの反応を起源としたモデルを予測している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来、オゾン濃度を制御するために、オゾン濃度計、気密のプラズマリアクタ、およびオゾナイザを組み合わせた系を構築する予定であった。ところが、簡易的なオゾン測定法であるインジゴ法でオゾン濃度を測定しながらプラズマ、オゾン、OHラジカルの関係性を調べたところ、予想に反してOHラジカル濃度はプラズマには直接影響せず、ほぼオゾン濃度に影響する結果が得られ、29年度の計画としていた実験、すなわちプラズマあるいはオゾン濃度制御によるOHラジカル濃度測定をする必要がなくなったため、制御系の構築は一旦取りやめている。しかし、OHラジカルの測定系は構築でき、28年度の目標としていた、同じオゾン濃度でのプラズマの有無がOHラジカル生成にもたらす影響についてのデータを得ることができたので、おおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の研究ではOHラジカル濃度はプラズマには直接影響せず、ほぼオゾン濃度に影響する結果が得られ、29年度の計画としていた実験、すなわちプラズマあるいはオゾン濃度制御によるOHラジカル濃度測定をする必要がなくなった。 しかし以前の研究で、難分解性であるインジゴカルミンのベンゼン環はオゾンの特性と関係なく分解することがわかっており、上記の結果と矛盾する。そこで、29年度では別のOHラジカル測定法として、酢酸分解によるOHラジカル濃度測定を行い、実施済みのテレフタル酸によるOHラジカル測定結果と比較する。酢酸は難分解性でOHラジカルでしか分解できない物質であるといわれているため、酢酸の分解率からOHラジカル濃度を測定可能である。酢酸を用いた測定でOHラジカルがオゾン濃度に依存しない結果が得られた場合、テレフタル酸を用いた測定法と異なる傾向となるため、2つのラジカル測定法の妥当性を改めて検証していく必要がある。場合によっては、オゾン濃度制御系を改めて構築しプラズマ、オゾン、OHラジカルの関連性を調べていく。 その後、OHラジカル生成過程の更なる詳細を明らかにするため、次のことを調べていく。水中のOHマイナスとOHラジカル生成の関連性を明らかにするため、pHがOHラジカル濃度に与える影響について調べていく。また、過酸化水素濃度も調べ、プラズマによる過酸化水素が生成されているか、それがOHラジカル生成にどれだけ寄与しているのかを調べる。空気中のプラズマではNOxが生成され、それがOHラジカルおよびオゾンの生成や反応を妨げている可能性があるので、それらの濃度も測定するとともに、NOxが生成しない酸素中でのプラズマでOHラジカル、オゾン、過酸化水素濃度を調べ、NOxの影響についても明らかにする。 以上の実験結果より、OHラジカルの生成機構についての詳細を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来、オゾン濃度を制御するために、オゾン濃度計、気密のプラズマリアクタ、およびオゾナイザを組み合わせた系を構築する予定であった。ところが、簡易的なオゾン測定法であるインジゴ法でオゾン濃度を測定しながらプラズマ、オゾン、OHラジカルの関係性を調べたところ、予想に反してOHラジカル濃度はプラズマには直接影響せず、ほぼオゾン濃度に影響する結果が得られ、29年度の計画としていた実験、すなわちプラズマあるいはオゾン濃度制御によるOHラジカル濃度測定をする必要がなくなったため、制御系の構築は一旦取りやめている。そのための費用がまた残っている。また、元々29年度に酢酸の分解率を測定するためのTOC計を購入するための費用として、一部費用を次年度に繰り越す予定であった。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度の酢酸によるOHラジカル測定の結果次第では、オゾン制御系の構築が改めて必要になってくる可能性がある。少なくとも酸素中でのプラズマによるOHラジカルを測定するために気密なプラズマリアクタを作製する必要がある。また、酢酸の分解率を測定するためにTOC計が必要になる。繰り越した費用はオゾン制御系の作製およびTOC計の購入費用として使用する。
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