研究課題
現在においても脳腫瘍、特にハイグレードグリオーマであるグリオブラストーマ (GBM)に対する抗がん剤は、ほぼテモゾロミド1種類だけであり、テモゾロミドの効果がない場合に他の抗がん剤を選ぶ選択肢が少ない。我々はグリオーマの研究からハイグレードグリオーマ特異的膜タンパク質Eva1を見出し、機能解析と作用機構の解明を行ってきた。その結果、Eva1はグリオーマの悪性度の亢進に強くかかわること、及び細胞膜レセプタータンパク質の機能を持ち下流のRelB-NF-κBのシグナルを活性化することを明らかにした。このためグリオーマの抑制にはEva1の機能を抗体や阻害剤で抑制する方法と、Eva1の下流で活性化するRelB-NFkBのシグナルを抑制する方法が効果的と考えられた。本研究ではRelB-NF-κBシグナル阻害剤の探索とマウスにおける薬効の評価を行うことで、グリオーマに対する新たな抗がん剤を提案する。そこで複数種類のGBM細胞塊からGlioblastoma-Initiating Cell (GIC)を樹立し、RelAを不活性化させる。そしてNF-κB結合配列にルシフェラーゼをつないだコンストラクトを強制発現させたスクリーニング用細胞を作成する。作成した細胞に北海道大学が持つケミカルライブラリーを添加して培養することでRelB-NF-κBを介した転写活性の抑制が起こる阻害剤のスクリーニングを行う。候補の阻害剤を数種類まで絞り込めたら、GICを皮下に移植した免疫不全マウスに阻害剤を投与する。腫瘍の大きさをコントロールと比較することで、阻害剤の効果を評価する。またGICを脳に移植したマウスに投与することで、脳腫瘍への効果も解析する。
2: おおむね順調に進展している
本年度はRelB-NFkBシグナル阻害剤をスクリーニングする系の確立を行った。阻害剤のスクリーニングに使う細胞にはRelB-NFkBシグナルが優位に活性化しているGICを使用する。候補細胞として既存のGICに加えて、GBM腫瘍塊から新たに樹立したGBM株を用いた。作成したGICの中でRelBのノックダウンにより細胞増殖や腫瘍形成能の低下するものを選別した。さらにRelAの活性を無効にするためにRelAをノックダウンすることで活性を抑制した(RelA(-)GIC)。スクリーニングベクターとして、NF-κB1は結合しないNF-κB2特異的な結合配列である5’-AGGAGACTTG-3’(NF-κB2 Response Element; NF-κB2 RE)を4回繰り返した配列を、当初の予定と変更してpGreenFire1(pGF1)に挿入した。pGF1はレンチウイルスベクターで、promoterの下流にcopGFPに2A配列を挟んでluciferase遺伝子がつないである(NF-κB2 RE-pGF1)。またpuromycine耐性遺伝子を持つ。このvectorを作成した3種類のRelA(-)GICに導入した。結合配列が無いpGF1と比較してNF-κB2-RE-pGF1は高いluciferase活性を得られたものが2株得られた。得られたGICに関しては、既知のNF-κBシグナル阻害剤であるCAPEを添加したとき活性の抑制が認められた。この細胞を用いて今後スクリーニングと化合物の解析を行っていく。
今後はスクリーニングと得られた薬剤の細胞阻害効果をin vitro 及びin vivoで解析する。■スクリーニング: 作成したスクリーニング細胞にHokkaido University drug libraryに含まれる化合物を添加し、NF-κBの活性を下げるものを選別する。■In vitro における阻害効果の解析:得られた化合物のNF-κBシグナルにおける作用点を解明するために、GICに添加したときにおけるNF-κBのリン酸化と核移行、及び結合配列に対する結合について解析する。また細胞増殖に対する影響を細胞周期やアポトーシスをフローサイトメトリーで解析する。■in vitroでの阻害効果の解析:まず候補因子を正常マウスに投与して影響がないことを確認する。そしてGICを用いて皮下腫瘍及び脳腫瘍を作成させたマウスに投与しガンに対する影響を解析する。
少額の繰越金が生じたが、研究はおおむね順調に進んでいる。
次年度の消耗品費として利用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Stem Cells
巻: 34 ページ: 2016-2025
10.1002/stem.2380