研究課題/領域番号 |
16K18519
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
田母神 淳 松山大学, 薬学部, 助教 (30580089)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生体エネルギー変換 / 微生物型ロドプシン / レチナール / フォトサイクル / プロトン移動 |
研究実績の概要 |
本研究では、海洋微生物から発見された光駆動プロトンポンプであるプロテオロドプシン(PR)のプロトン輸送方向が、アルカリ性の条件下で通常の外向きから内向きへと変換されるという現象が、どのような分子メカニズムで起こるのかを明らかにすることを目的とする。この目的を達成するために、まずはアルカリ性条件下でどのような光化学反応(フォトサイクル)が起きているのかを明確にする目的で、閃光光分解法による過渡吸収変化測定を行った。測定の結果、アルカリ性では通常のフォトサイクルで形成されるM中間体に加えて、Mに吸収波長が類似するもう1つのM様中間体(Ma)が形成されることが分かった。反応速度論に基づく解析の結果、Ma中間体はフォトサイクルの反応初期で起こる分岐反応によって生じることが分かった。さらにその反応はpHに依存し、pHが高くなるに従いMa中間体の形成量も増大することが分かった。Ma中間体の生成・崩壊速度は、塩化ナトリウムの存在の有無で異なることが明らかになった。したがって、どちらのイオン種に依存するかは明確ではないが、ナトリウムイオンもしくは塩化物イオンが結合し、Maの形成速度がコントロールされていることが示唆された。結合するイオン種の同定は、今後行う必要がある。 また、アルカリ性でのフォトサイクル時におけるプロトン移動について調べるため、インジウム・酸化スズ(ITO)透明電極を用いた実験を行った。閃光照射時の実験結果から、Ma生成時にプロトンを吐き出して、崩壊時に取り込むというPRの通常のフォトサイクルとは逆の順番でプロトン移動が起こることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ここまでの実験から、PRのアルカリ性で起こるフォトサイクルとその過程で起こるプロトン移動については、予測スキームを確立することができた。しかしながら、Ma中間体と通常のM中間体との形成反応における活性化エネルギーの違いを見積もるために、閃光光分光法による温度依存性の実験を当初計画していたが、現在所有する実験装置では、室温付近から高温側での温度調節しか行えず、低温側での実験が行えないという問題に直面した。そこで、現有する測定装置に取り付けるためにアレンジした低温セルを現在構築中であり、翌年度初旬ごろには納入できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度でやり残した温度依存性の実験を行い、M中間体とMa中間体との形成反応の違いを熱力学的な観点からも考察することを試みる。加えて、上で述べたMa中間体の反応速度に関与する結合イオン種を明らかにするため、硫酸ナトリウム存在下での実験も行う。さらに、Ma中間体を生じるフォトサイクルへの分岐反応に関係するアミノ酸残基を同定するため、様々な変異体を用いた解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた閃光光分解法を用いた過渡吸収変化測定の温度依存性実験を実施するにあたって、現有装置への低温セルと温度コントローラーの設置が必要となった。しかしながら、低温セルの設計が本年度中に間に合わなかったこと、さらには設置費用の総額が本年度の予算額を大きく上回ったため、次年度に計上した予算と合わせての購入を検討した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記した通り、次年度へと持ち越した本年度分の研究費は、翌年度の予算と合わせて、全額、閃光光分光測定装置用にアレンジした低温セルと温度コントロール・システムの購入費用へとあてる。
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