研究課題/領域番号 |
16K19034
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋爪 脩 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員(常勤) (50755692)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マグネシウム / 腎臓 / 血圧 |
研究実績の概要 |
本研究では、腎臓の遠位尿細管におけるマグネシウム再吸収と血圧調節の関わり、またその酸化ストレスとの関わりを明らかにすることを目指している。これまでの研究から、この遠位尿細管で強く発現しているマグネシウムトランスポーターであるCNNM2遺伝子の腎臓特異的ノックアウトマウスにおいて顕著な血圧低下が引き起こされていることが明らかなっており、このマウスでは腎臓の遠位尿細管において陽イオンチャネルであるTRPM6の発現が低下していることが確認された。昨年までにTRPM6の腎臓特異的なノックアウトマウスの作製に成功しており、このマウスを解析したところ血圧の低下が確認された。本年度ではTRPM6腎臓特異的なノックアウトマウスのより詳細な解析を行なった。 血清中の主な陽イオン量の変化を調べるために、ICP-MSを用いた比較を行なった結果、腎臓特異的TRPM6ノックアウトマウスでは野生型と比較してナトリウムやカリウム、カルシウムでは有意な変化はなかったが、マグネシウム量のみが有意に減少していることがわかった。さらに、マウスの血圧をテレメトリー装置を使用して継続的に調べたところ、野生型では昼間に比べて夜間で血圧が上昇するが、TRPM6腎臓特異的ノックアウトマウスでは夜間の血圧上昇が起きていないことがわかった。代謝ケージを用いた解析やテレメトリー装置を用いた解析から摂食量や活動量には違いがなかったので、既知の血圧調節システムとの関わりを調べたところ、TRPM6腎臓特異的ノックアウトマウスでは夜間での血中のレニン量が増加していないことがわかった。これらから、マグネシウム再吸収の低下がレニン・アンジオテンシン系を介して血圧調節に関わっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りに腎臓特異的TRPM6ノックアウトマウスの解析を進めることができている。加えて、新たに血圧変動の日周性が腎臓特異的TRPM6ノックアウトマウスでは起こらないことを見つけており、さらなる解析からレニン・アンジオテンシン系の血圧調節システムが関与していることが示唆された。レニン・アンジオテンシン系による血圧調節機構に腎臓でのマグネシウム再吸収がどのように関わっているのか、そのメカニズムを調べることで、マグネシウム再吸収による血圧調節のメカニズムの解明に迫ることができると考えている。このためおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
腎臓特異的TRPM6ノックアウトでの血圧の低下のメカニズムを明らかにするために以下の実験を予定している。 ・血中でのアルドステロンやバソプレシンなどレニン以外の血圧調節に関わる因子の量の測定を行い、マウス生体内でのマグネシウム再吸収がどのように血圧調節に関わっているのか、その全体像を明らかにする。 ・腎臓組織のスライスカルチャーを用いた実験系でレニンの放出量の比較を行う。レニンの放出には、交感神経による制御とマキュラデンサによる制御が知られているため、それぞれを刺激することが知られているイソプロテレノールやプロスタグランジンE2などの添加によるレニン放出量の変化を調べる。 ・このマウスでの血圧低下に交感神経の関与が疑われる結果が得られた場合には、腎臓の神経切除手術を行ったマウスで血圧測定を行い、生体内でも実際にマグネシウム再吸収が同様のメカニズムを介して血圧調節に関わっていることの確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
腎臓特異的TRPM6ノックアウトマウスの解析がスムーズに行えており、必要となるマウスおよびその維持費や解析用の試薬類を大いに節約することができた。今年度の未使用分は高額な試薬類の購入に充てることで、より有効に使用できると考えている。
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