研究課題
α2-マクログロブリン/C3,C4,C5ファミリーに属するGPIアンカー型膜タンパク質CD109は,肺・口腔・食道・子宮頸部の扁平上皮癌,肺腺癌等で発現が増強していることが明らかとなっており,癌関連遺伝子と考えられている.一方で,我々は,作出したCD109ノックアウトマウスが皮膚炎症を伴うことを明らかとした.本研究では,CD109ノックアウトマウスを用いて,皮膚発癌におけるCD109の役割を解明するとともに,慢性炎症が発癌に与える影響を検討した.まず,野生型マウスおよびCD109ノックアウトマウスを用いて,DMBA/TPAによる二段階化学発癌実験を行ったところ,ノックアウトマウスでは腫瘍発生数が有意に減少することが明らかとなった.一方,病理組織学的解析を行ったものの,発生した扁平上皮乳頭腫の組織像および悪性化率,扁平上皮癌の組織型・深達度・転移の頻度については,両群間で有意な差はみられなかった.個体レベルで生じたこれらの結果を引き起こす機序を調べるために,マウス皮膚より初代培養ケラチノサイトを単離・培養し,細胞生物学的な解析を行った.CD109ノックアウトマウスより得たケラチノサイトではTGF-βシグナル系のSmad2のリン酸化が亢進しており,TGF-β/Smadシグナルとの関連が知られている炎症抑制因子Nrf2の活性化の亢進も認められた.さらに,DMBA塗布後のマウス皮膚から得たゲノムDNAを用いて,DMBAによる腫瘍発生の原因とされるH-ras(Q61L)変異の頻度をPCR法により解析したところ,CD109ノックアウトマウスの皮膚では野生型マウスに比べ,H-ras変異の頻度が小さいことが明らかとなった.以上の結果から,皮膚におけるCD109の欠損により,TGF-β/Smad/Nrf2経路が活性化し,DMBAによるH-ras変異の発生を抑制していることが示唆された.現在,マウス皮膚検体および初代培養ケラチノサイトを用いて,TGF-βシグナル制御におけるCD109の役割のさらなる解析を継続している.
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画に沿って,野生型マウスとCD109ノックアウトマウスを用いた化学発癌実験を行ったところ,腫瘍発生率に有意な差が認められただけでなく,皮膚検体および初代培養ケラチノサイトを用いた細胞生物学的な解析により,TGF-β/Smad/Nrf2経路が関与していることを示すなど,そのメカニズムの一端についても明らかとしており,当初の計画以上に進展している.
CD109ノックアウトマウスおよび初代培養マウスケラチノサイトを用いた検討により,CD109が欠損する場合にTGF-β/Smad/Nrf2経路が活性化するより詳細なメカニズムを明らかとする.特に,Nrf2あるいはその下流であるp21のノックダウン実験を行うことで,TGF-β/Smad/Nrf2経路におけるCD109の果たす役割についての解析を継続する.
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
Int J Oncol.
巻: 49 ページ: 1369-1376
10.3892/ijo.2016.3638
Oncotarget.
巻: 7 ページ: 82836-82850
10.18632/oncotarget.12653
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/patho2/