研究課題/領域番号 |
16K19178
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
河田 晋一 東京医科大学, 医学部, 助教 (00527955)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホルムアルデヒド / 尿素 / 正常解剖実習 / サージカルトレーニング |
研究実績の概要 |
正常解剖実習における解剖体の防腐処置には一般的にホルマリン(ホルムアルデヒド37%含有溶液:FA)が用いられている。しかし、FAは異臭を発し呼吸器障害や粘膜障害等を引き起こすことが知られ、正常解剖実習をはじめ解剖学を取り巻く作業環境改善策として、FAの濃度低減対策が急務である。さらに、FA管理濃度指針値が強化され、各大学でもFAの濃度低減対策が行われているが、現在の低減対策は施設の改修工事によるものが大半であり、発生源である解剖体に対する低減対策はほとんど検討されていない。一方、最近わが国でもご遺体を用いたサージカルトレーニングが広まりつつあるが、FA固定による組織の硬化が問題となっており、必ずしもサージカルトレーニングに適しているとは言えない。 応募者らは、解剖体中に蓄積したFAを、保存中にアルコール置換して一定の効果を得た。しかし、解剖の進行に伴い、体内のFAが揮発することが依然課題である。本研究では、保存前(食塩を主成分とした防腐液の開発)、保存中(アルコール置換)、保存後(尿素散布による重合反応)の3つの視点から、教育環境および作業環境におけるFAの濃度低減を目指す。 本年度は、保存後における尿素の重合反応によるFA濃度の低減対策について検討した。FAのスカベンジャーのひとつである尿素は、人体に対しても無害である。固定およびアルコール置換したご遺体から摘出した臓器への尿素溶液の散布を行うことでFAレベルを低減させることができた。これらの事前実験の結果を踏まえ、詳細な検討および、実験計画のもと、解剖実習中のご遺体への尿素溶液散布を行った。その結果、簡易的かつ安全な方法として解剖実習室のFAレベルを低減させるのに有用であることが示唆された。当初、懸念されていたFAレベルの低減によるご遺体の腐敗はみられず、約4か月の解剖実習を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度では、固定およびアルコール置換したご遺体から摘出した臓器への尿素溶液の散布や浸漬による検証で、FA濃度の低減に加え、組織の軟化がみられた。本年度では、尿素溶液の成分調整を行い、組織の軟化を抑えて、FA濃度を低減させることができた。これらの結果を踏まえ、解剖実習中におけるご遺体への尿素溶液散布を行った。その結果、簡易的かつ安全な方法として解剖実習室のFAレベルを低減させるのに有用であることが示唆された。当初、懸念されていたFAレベルの低減によるご遺体の腐敗はみられず、約4か月の解剖実習を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
食塩を主成分としたご遺体の防腐処置法との併用を考慮して、新たに尿素におけるホルムアルデヒド濃度の低減対策と組織の軟化作用について検討する。保存前(食塩を主成分とした防腐液の開発)、保存中(アルコール置換)、保存後(尿素散布による重合反応)の3つの視点から、解剖実習環境を整えるとともに、サージカルトレーニングに適した防腐処置法を検証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 尿素含有溶液の成分調整を行ったことにより、申請時に予定していた試薬量よりも効率的に実験を進めることができたため。 (使用計画) ご遺体への防腐処置を行うための固定液に含まれる試薬および固定・保存後のホルムアルデヒド濃度の低減対策のための試薬を購入する必要がある。食塩を主成分としたご遺体の防腐処置法との併用を考慮し、新たに尿素におけるホルムアルデヒド濃度の低減対策の改良と組織の軟化作用について検討する。尿素溶液の成分を調整することで、ホルムアルデヒド濃度が低減されたよりよい解剖実習環境を整え、サージカルトレーニングに適した防腐処置法をひきつづき検証していきたい。
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