研究実績の概要 |
ホルムアルデヒドは、医学部および歯学部の肉眼解剖実習で用いられるご遺体の防腐・固定溶液として必要不可欠であるが、異臭を発し呼吸器障害や粘膜障害等を引き起こすことが知られ、ご遺体から揮発するホルムアルデヒドの曝露は、学生と教育者にとって有害である。本研究の目的は、ご遺体の防腐処置における保存前(飽和食塩溶液を用いた固定)、保存中(アルコール置換)、保存後(尿素による重合反応)の3つの視点からご遺体内に蓄積されたホルムアルデヒドの濃度を低減させることである。本年度は、昨年度にひきつづきホルムアルデヒドのスカベンジャーである尿素を含有した溶液を肉眼解剖実習中のご遺体に噴霧することにより、解剖実習室全体のホルムアルデヒド濃度を低減させることを検討した。 予備実験として、摘出臓器への尿素溶液の散布を行うことでホルムアルデヒド濃度を低減させることができた。これを踏まえ、解剖実習中全課程において、ご遺体への尿素溶液の散布を行うことで実習室全体のホルムアルデヒド濃度を低減させることができた。当初、懸念されていたホルムアルデヒド濃度の低減によるご遺体の腐敗はみられず、約4か月の解剖実習を行うことができ、これまでの研究成果を誌上報告するに至った。(Anatomical Science International, Volume 94, Issue 2 ; Springer) 本研究により、簡易的かつ安全な方法として解剖実習室のホルムアルデヒド濃度を低減させるのに有用であることが示唆された。一方で、尿素溶液の散布は、ご遺体の腐敗を進行させる可能性を否定できず、さらに検討・評価する必要がある。
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