研究課題/領域番号 |
16K19205
|
研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
奥橋 佑基 東京工科大学, 医療保健学部, 助教 (90734715)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 白血病 / siRNA / PTEN / 偽遺伝子 / Notchシグナル |
研究実績の概要 |
白血病は幹細胞制御に関わるシグナル伝達系の異常や遺伝子変異などが関与した結果、白血病幹細胞の自己複製能亢進と分化停止によって白血病細胞が増殖する疾患である。我々はこれまでの研究から、白血病細胞の増殖と分化にはNotch、Wnt、Hedgehog、mTORシグナルが関与しており、特にNotchシグナル阻害剤のγ-secretase inhibitor (GSI)は多くの白血病細胞株に対してアポトーシスを介した増殖抑制効果が認められることを見出したが、一部の白血病細胞株では増殖がむしろ促進するという結果を世界で初めて発見し報告した(Okuhashi et al. Anticancer Res, 30: 495-498, 2010)。これはGSIが白血病細胞の増殖に対して多様な作用をもつことを示唆し、GSIの臨床使用にあたって注意が必要であることを意味する。 本研究ではGSIが一部の細胞株の増殖を促進させた原因を追究していく過程で、白血病細胞の増殖にPTENの偽遺伝子であるPTENP1が関与している可能性を見出したので、白血病細胞の分化、増殖におけるPTENP1の影響を解析した。 その結果、偽遺伝子PTENP1が機能遺伝子としての機能を獲得し、一部の白血病細胞の増殖を調節している可能性が示唆された。偽遺伝子は機能遺伝子の塩基配列と類似しているが、機能を有していないと考えられているDNA領域のことであり, あまり重要ではないとされてきた。しかし、近年、偽遺伝子が機能的に働いている可能性を示唆する報告がある。本研究でもこれまでの偽遺伝子に対する定説とは全く異なる新たな知見になり得る結果が得られた。今後、他の白血病細胞株において同様の検討をするとともに、PTENP1の機能について詳細な分子機序を明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、Notchシグナル阻害剤が一部の細胞の増殖を促進するメカニズムの解析を行った。特にPTEN遺伝子に着目し解析を行った結果、PTEN の偽遺伝子であるPTENP1が白血病の増殖に関与している可能性を見出した。本来、偽遺伝子は遺伝子としての機能は失われていると認識されている。しかし、本研究は従来の定説とは異なる新たな知見を見出した。その結果をまとめたものを第65回日本臨床検査医学会学術集会において発表した。また、幹細胞の分化と増殖に関与していることが知られているWNTシグナルとHedgehogシグナルについて解析した結果、一部の白血病においてNotchシグナルとmTORシグナルにも作用していることを明らかにし、海外学術誌に報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は当初の計画に基づき、一部の白血病細胞の増殖がNotchシグナル阻害剤であるγ-secretase inhibitor (GSI)によって促進された原因を追究する。これまでの研究から、PTENの偽遺伝子PTENP1が白血病の増殖に関与しており、このことが原因で白血病細胞の増殖がGSIによって促進された可能性が示唆された。さらに、PTENP1は白血病細胞の増殖だけでなく、細胞周期の調整にも関与している可能性があり、今後更にPTENP1の機能解析を行い、白血病におけるPTENP1の役割を明らかにする予定である。 これらの結果をとりまとめ、学会等の規定に従い公表に関する審査申請を行い、学会及び海外学術誌に発表する次第である。
|