研究課題
ウエルシュ菌新型エンテロトキシン(BEC)は人に下痢症を起こし食中毒の原因となる毒素である。従来のウェルシュ菌食中毒では汚染食品の喫食後、腸管に到達したウエルシュ菌が芽胞の形成とともにエンテロトキシン(CPE) を産生して、CPEが腸管上皮細胞に作用することで下痢症を起こすことが知られている。一方、BEC産生性ウエルシュ菌による食中毒の発症機序はこれまで明らかとなっていない。本研究ではBECの毒性発現メカニズムや食中毒の発生機序を明らかにすることを目的とした。BECはBECaとBECbの2成分で構成される。これらをコードする遺伝子は共にシグナルペプチドと考えられる配列を有していなかった。また、BEC産生性ウエルシュ菌を芽胞形成培地と栄養型増殖培地のそれぞれで培養し、その培養上清濾液をサックリングマウス試験に供試すると、芽胞形成培地でのみ液体貯留活性が確認された。これらの結果からCPEと同様にBECは芽胞形成時に産生されると考えられた。また、体内に菌を摂取したのち腸管で芽胞が形成されるとともにBECが産生されて下痢症を起こすと考えられた。BECa/b遺伝子とCPE遺伝子を同時に検出できる遺伝子検出系を構築し、当所での食中毒検査に応用するとともに、その他の地方衛生研究所にも技術支援を実施している。BECbの毒性発現機構を解明するために、各種動物の赤血球に接種したが、溶血は認められなかった。BECの類似毒素であるウエルシュ菌が産生するイオタ毒素のb成分(Ib)はA431、A549細胞に対して細胞毒性を示すことが知られていた。本研究によりBECbはこれらの細胞とは異なる細胞腫に対して毒性を示すことが明らかとなり、イオタ毒素と異なる機序によって毒性を発揮する可能性が示唆された。
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BMC Infectious Diseases
巻: 19 ページ: 1-3
10.1186/s12879-019-4350-3.