研究課題/領域番号 |
16K19442
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
須永 浩章 群馬大学, 大学院医学系研究科, 研究員 (10760077)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脂肪酸分画 / 肺線維症 / 肺気腫 / 触媒酵素 |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、細胞内に取り込まれた飽和・不飽和脂肪酸の脂肪酸鎖長を伸長させる役割を持つElongation of long chain fatty acids family member 6 (Elovl6)が、脂肪酸を基質として肺サーファクタントを合成するⅡ型肺胞上皮細胞に強く発現していることを見出した。そして、特発性肺線維症患者ではこのElovl6の発現が減少することで、肺組織内で飽和脂肪酸であるパルミチン酸の増加と不飽和脂肪酸であるオレイン酸の減少を認め、この脂肪酸分画の変化により酸化ストレスやアポトーシスが亢進して、肺線維症の病態形成に関与することを明らかにした[Sunaga H, et al. Nat Commun.2013]。 さらに野生型マウスに喫煙曝露させることで肺気腫モデルを作成したところ、喫煙曝露2ヶ月の肺では、コントロールマウスと比較してElovl6および脂肪酸分画調節因子の発現が増加していることを見出した。さらに、このマウスの肺における脂肪酸組成を検討したところ、パルミチン酸分画の減少およびオレイン酸分画の増加が認められ、肺線維症と逆の傾向を示していることが明らかとなった。一方、喫煙曝露6ヶ月の肺では、Elovl6の発現および脂肪酸分画の変化は認められなかった。以上の結果から、肺気腫の初期段階においては、Elovl6の発現増加により脂肪酸鎖長の伸長が進み、不飽和脂肪酸分画が優位に変化することで肺気腫の病態形成に影響することが推察された。 現在、Ⅱ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6欠損マウスを作成し、脂肪酸組成の変化と病態の発症・進展との関わりについて、詳細に検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
喫煙曝露2ヶ月および6ヶ月によるマウス肺気腫モデルの作成が順調に進んでおり、モデルマウス肺におけるElovl6発現および脂肪酸組成の変化と、肺気腫との関連性について、着実に研究成果が出ている。
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今後の研究の推進方策 |
今後もⅡ型肺胞上皮細胞における脂質代謝変化と肺線維症、肺気腫との関連性について、Ⅱ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6欠損マウスや培養細胞を用いた基礎的な検討を進めていく。さらに、臨床研究として、肺線維症、肺気腫の患者サンプルを用いて、脂肪酸分画の測定やElovl6の発現量・活性と病態との関わりについて、詳細に検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にⅡ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6欠損マウスの作成を行ったが、実験に十分なマウスを産出できなかったため、その際に使用できなかった当初の予定額を、次年度へ繰り越す予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に繰り越した研究費に関しては、平成28年度で解析しきれなかったⅡ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6欠損マウスにおける肺線維症、肺気腫の病態解析に関する実験、および臨床検体の解析費用に充てる予定である。 主な内訳としては、マウス飼育費、病態モデル動物の作成費、ノックアウトマウスや肺線維症・肺気腫患者における肺組織・血液・培養細胞サンプルにおける脂肪酸分画の測定、PCR用試薬、抗体、初代培養細胞試薬などである。
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