研究課題/領域番号 |
16K20379
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
島居 傑 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (20598239)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 動物実験 / 血管透過性亢進 / in vivo imaging / 敗血症 |
研究実績の概要 |
血管透過性の亢進は、輸液量の増加や浮腫の増大、生命予後の悪化を招く。血管透過性の亢進を制御することは、重症患者の生命予後を改善させる可能性があるが、その制御方法は確立しておらず、適切な治療薬も明確になっていない。 本研究は、血管透過性亢進の制御方法の開発を目的としている。18G針により穿孔を作成した、盲腸結紮穿孔による腹膜炎性敗血症モデル(CLPモデル)で、十分な血管透過性亢進が得られることを確認したため、実検には同モデルマウスを用いた。 現在一般に用いられている血管透過性の評価方法には、色素を投与したマウスから臓器を摘出し、漏出した臓器中の色素を測定する方法や、開胸や開腹手術で臓器を露出した上で、顕微鏡で観察する方法などがあるが、いずれも侵襲的である。そのため、長期的な観察や複数のtime-pointでの評価は困難であり、精度の高い実験結果を得るための障壁となっていた。今年度は、同一個体での継時的な観察を可能とし、新規治療法開発の一助とするため、Perkin Elmer社のIVIS Lumina II imaging systemを用いて、蛍光による非侵襲的な血管透過性評価方法の開発を行った。本法は、近赤外線蛍光色素を投与した動物において、体表の血管透過性を測定することで、その程度を評価する方法であるが、実験の結果、体表の血管透過性が深部臓器である肺の血管透過性と相関することが明らかとなった。 この、新規非侵襲的血管透過性評価方法については現在論文作成中である。引き続き、本法による評価を用いた、血管透過性亢進の制御方法の開発を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、CLPマウスのほか出血性ショック(THS)による血管透過性亢進モデルマウスを確立することと、非侵襲的な血管透過性評価方法を開発することを目的とした。 CLPマウスでは、18G針を用いて腸管穿孔を行うことで、確実に血管透過性亢進を再現できるモデルを安定して作成できるようになった。一方、技術的な面からTHSマウスの作成には難渋し、年度中に安定してTHSマウスを作成することはできなかった。そのため、CLPとsham、血管透過性の抑制を目的としてステロイドを投与したマウスを用いて、非侵襲的な血管透過性評価方法の開発を行った。 非侵襲的な血管透過性評価方法の開発には、Perkin Elmer社のIVIS Lumina Ⅱ imaging systemを用いた。同装置では、蛍光色素を投与した動物に励起光を照射することで、蛍光を定量化することが可能となる。既報から、血管透過性亢進状態では蛍光色素が血管外漏出するため、その蛍光度が血管透過性の程度を反映すると考えられた。また、蛍光色素には様々な特性があるが、短時間の半減期を持つため血管内のbackgroundの影響を除外しやすく、かつ、分子量が小さく血管外に漏出しやすいPerkin Elmer社のGenhance 750が、血管透過性の評価に有用であると考えられた。これらの機材を用いて実験を行った結果、非侵襲的に測定したマウスの足底の蛍光度は、CLPとsham、ステロイド投与群の間で有意に異なり、さらに、ex vivoで観察した肺の蛍光度と強い相関を認めることが判明した。以上の結果から、足底の蛍光度測定は、非侵襲的な血管透過性評価や、肺の蛍光度、すなわち、肺の血管透過性の予測に有用と考えられた。この結果を非侵襲的な血管透過性評価方法の開発としてまとめ、現在論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
CLPによる敗血症モデルマウスにおいて安定した血管透過性亢進が得られるようになったため、同モデルを用いて、新規血管透過性制御方法を開発する。方法としては、CLPと薬剤投与群を比較し、血管透過性の抑制効果やバイオマーカーの動態を検討することで、薬剤の治療効果につき検討する。 また、今回開発した非侵襲的な評価方法を用いることで、これまで犠死せしめることが必要であったためできなかった、複数のtime-pointにおける血管透過性の評価や、同一個体における、血管透過性制御の効果と生存時間への影響の検討などを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、動物購入費、飼育費用、実験器材購入費、蛍光試薬購入費、統計ソフト購入費などに助成金を使用した。これらに要した費用は当初の予定よりも安価であったが、これは、当該研究費の助成を受ける前より、研究室にそなえてあった物品を使用することが可能であったためである。次年度繰越金により、これらの購入を要する。また、学会発表が遠方とはならなかったため、旅費を要さなかったことも、繰越金が生じることに関係した。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度の購入が間に合わなかった、動物飼育、実験消耗品などの備品を購入する。また、現在作成中の、蛍光トレーサーを用いた非侵襲的な血管透過性評価方法の開発についての論文を、オープンアクセス紙に投稿予定であるため、投稿料を要する。これらに関する費用に、繰越金の大半を使用する予定である。 当初より、H29年度には血管透過性抑制試薬を購入し、その試薬の臨床効果について研究する予定としているため、当該年度の助成金は、予定通り同試薬購入や、実験器材の購入、学会や論文発表などの費用に使用する予定である。
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