本年度は、主に過去2年の研究成果をまとめ、それを発展させた。 まず、国民文化と異文化経営は、従業員から見る原産国のイメージと関連していることがわかった。インタビューした在日中国系企業で勤める日本人従業員は、中立もしくは否定的なイメージを持っているケースが多かった。しかし、一部の日本人従業員は、日々中国人従業員と接することで、ある程度彼らの慣習や文化的ロジックに関する理解を深めているということもわかった。
次に、国民文化以外に、企業文化による異文化経営への影響も確認された。過去に行ったインタビューでは、原産国イメージ(企業の出身国)から影響されることはあるが、企業文化といった独自の風土からの影響も過小評価すべきでないという結論に至った。例えば、異なる原産国イメージをもって企業に入った後、評価制度や給与体制といった様々なより「実質的」な要因がより大きく従業員の考えに影響していることもあった。
最後に、中国人経営者が持つアイデンティティの複雑性も異文化経営に影響していることがわかった。例えば、インタビューした在日中国系企業では、転職者の日本人を雇うことが多く、新卒は中国人従業員であることが多い。そのため、経営者は中国人であるが、経歴が長く、職位が高いのは日本人が多いという構造になる(家族経営の場合は、中国人の親戚がトップであることが多い)。このような構造以外に、中国人経営者がより日本人従業員を中国人従業員より「信頼」していることがわかった。この背景には、日本人が培った「時間厳守」、「忠誠心」、「真面目さ」といった点が働いているだけでなく、中国人としての「誇り」がある一方、同民族への「不信任感」もあったことから、中国人経営者の中には、中国と日本に関する帰属感やアイデンティティ上の葛藤があるのではないかと結論づけた。
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