オレキシンは覚醒状態の維持に関与する神経ペプチドである。本研究では視床下部外側野に存在するオレキシンニューロンと情動や気分に関与するセロトニンとの関係に着目しその両者の関係を検討した。背側縫線核セロトニンニューロンに特異的にChR2を発現させたところ、オレキシンニューロンに豊富な投射がみられ、この線維を光刺激すると、オレキシンニューロンは過分極応答を示した。この作用は5HT1A受容体拮抗薬で完全に抑制された。そこで、Cre-loxPシステムを用いてオレキシンニューロンに唯一発現するセロトニン受容体サブタイプである5HT1A受容体をオレキシンニューロン特異的に欠損させたマウス(ox5HT1ARKOマウス)を作出し、セロトニンによるオレキシンニューロン制御機構の生理的役割について検討した。 今年度はox5HT1ARKOマウスに対してマイルドな拘束ストレスを30分あるいは90分負荷を行い、脳波への影響を検討した。拘束ストレス負荷後24時間におけるマウスの脳波および筋電図を測定し、覚醒・NREM睡眠・REM睡眠に分類を行った。その結果、ox5HT1ARKOマウスではコントロール群・30分負荷群と比較して90分間の拘束ストレスから解放した後のREM睡眠の量が有意に増加していた。セロトニンはREM睡眠量を適切なレベルに保つ働きがあるが、オレキシンニューロンに発現する5HT1A受容体が欠損していることによってオレキシンニューロンはセロトニンによる抑制を受けることが出来ず、拘束ストレスを負荷した場合はREM睡眠量を適切なレベルに保つことができないと考えられる。 以上の結果から、本研究ではオレキシンニューロンに局在する5HT1A受容体は睡眠と覚醒のレベルを調節するために重要な役割を担っていることが示唆された。
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