研究課題/領域番号 |
16K21065
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
安嶋 久美子 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 研究員 (70584051)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 摘出リンパ管 / 微小循環生理 / 灌流システム / カーボンナノ粒子 / ドラッグデリバリーシステム / イメージング |
研究実績の概要 |
関節内に造影剤を注入すると所属リンパ節に移動することが明らかになり、関節内のCNTが他臓器に移動する場合はリンパ系を介すると考えられた。このためリンパ管内のCNTの移動様式を調べる実験系を構築する作業を開始した。 【リンパ管の生組織摘出法の手技確立】リンパ管の解剖学的選定は、膝関節の位置を考慮し下肢からのリンパ流が集合する腸骨リンパ節集合リンパ管にした。ラットからリンパ管組織を摘出する手技確立を行い、直径約100~200 μm、長さ約1~2 mmのリンパ管を摘出し両端をガラスピペットにカニュレーションし縫合糸で固定、臓器槽チャンバー内にセットする方法を確立した。 【摘出リンパ管の自発性収縮の保持条件の探索】摘出リンパ管特有の生体反応である自発性収縮を起こす実験条件を検討した。摘出リンパ管をカニュレーションした臓器槽チャンバー内にポンプで灌流液を注入し対側から吸引することで灌流させた。灌流液はリンパ系の低酸素分圧とpH7.4、温度38℃を保ったCaイオン含有のKrebs緩衝液で、5 mL/minの速度でリンパ管外腔に灌流した。摘出リンパ管には内圧として6 cmH2O静水圧と張力を負荷させることにより連続的自発性収縮を惹起できることが分かった。リンパ管内の流れは2 mmH2Oの微小な静水圧差を用いることにより生体に近い流れ速度を作ることが可能と分かった。 【リンパ球の流れを捉えるイメージングシステムの確立】リンパ管内の流れの確認には、2~5 μmのリンパ球を用いた。ラットから摘出した腸骨リンパ節を磨り潰し被膜から回収した細胞をCFSE蛍光色素で染色して行った。これらの動きをモニタリングする機械をセットアップし摘出リンパ管内腔を流れる蛍光リンパ球の流れ方を捉えることができた。リンパ管自発性収縮に伴う直径変化や振幅・頻度を経時的に追尾し計測するシステムも構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
このin vitro摘出組織系を用いた手技と実験システムの構築により、今後様々なナノ粒子・マイクロ粒子の脈管内送達イメージングが期待できると共に、バイオマテリアルが脈管系の生体反応・組織・細胞レベルにおいてどのような影響を及ぼすか解明する新規の生体内安全性評価法を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、この構築した摘出リンパ管灌流システムを用いて、CNTや種々のナノ粒子を脈管内に流し脈管の生体反応を、組織・細胞レベルで試験する予定であるが、用いる材料の分散状態が大きな問題であり、材料毎に個々の分散条件を検討すること、濃度や粒子数、速度、粘度、表面修飾など脈管に流す最適条件を検討することが課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
摘出リンパ管灌流システムを構築するにあたって、従来研究室で使用していた蛍光顕微鏡や実体顕微鏡、CCDカメラ、デジタルカメラ、カラーモニター、ポンプ、N2CO2ガス、手術用器械などの備品を使用したため、特に追加する大きな備品購入の必要はなかったためと、実験動物と消耗品だけに費用を予定していたが当初見込んだよりも安価で遂行できたため、次年度へ繰り越しとなる金額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
第一段階の実験システム構築まで初年度で進められたため、次年度は繰り越しになる額を含め、イメージングのための装置、解析をグレードアップさせるための設備の準備に進む予定である。1ナノ粒子を捉えるため、現在の解像度300nmを倍の150nmに上げるアダプターレンズや、ナノ粒子の動きに影響を与えない無脈動注入ポンプ、除振台の他、現段階では動画撮影時間が数秒間のところを数十秒に拡大するためのハイスピードカメラのメモリアップ、静水圧を精密にコントロールする装備、1ナノ粒子の動きを追跡し測定するための流体解析ソフト等を計画しており、平成29年度請求額と合わせて使用する。
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