今年度の研究では,移住者のコミュニティに対する認識が個人・社会志向性を介して精神的健康度に与える影響について検討した。本研究では都市部(政令指定都市)から地方(政令指定都市や県庁所在地以外)に移住してきた350名,地方から都市部に移住してきた350名を対象にインターネットによる質問紙調査を実施した。 本研究の結果として,都市部から地方に移住してきた人々は,地方から都市部に移住してきた人々よりも住民の相互監視傾向(ex:地域の人たちは,地域活動を行う際,一部の人が協力しないことを過剰に嫌っている)を高く感じていることが確認された。 また,交互作用を検討するために階層的重回帰分析をおこなった結果,都市部から地方に移住してきた人々は,社会志向性が高く住民の相互監視傾向を高く感じている場合には,社会志向性が高く住民の相互監視傾向を低く感じている場合に比べて精神的健康度が低いことが示された。さらに,社会志向性が高く住民の連携個別性(ex:必要な地域活動がある時以外は,お互いに干渉しすぎない雰囲気がある)を高く感じている場合には,社会志向性が高く住民の連携個別性を低く感じている場合と比べて精神的健康度が高いことが明らかにされた。このことから都心部から地方への移住者に限り,社会志向性の高い移住者ほどコミュニティのあり方が精神的健康度に与える影響が強いことが示唆された。 最後に,都市部から地方に移住してきた人々と地方から都市部に移住してきた人々の間で共通して,個人志向性が高いことが精神健康度を高めることが確認された。このことから都心部から地方への移住者においても,個人志向性が移住者の精神健康度を保持する上で重要な要因であることが見出された。
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