計画Ⅰ: 生殖線特異的なJmjd1a/b DKOマウスに引きおこされる性転換の原因を解明する目的で、性決定期E11.5日の生殖腺体細胞に着目して以下の4つの実験を行った。1) FACSにより生殖腺体細胞のH3K9me2レベルを定量する。 2)生殖線のSryとSox9発現変化を組織免疫染色により明らかにする。 3) 精製した生殖腺体細胞を用いてRNA-Seqを行い、Sry上流経路の遺伝子発現変動の有無を明らかにする。 4) Sry Tgマウス用いてJmjd1a/b DKOマウス性転換のレスキュー実験を行い、Jmjd1a/bがSry下流の性分化経路を制御する可能性を検証する。以上の一連の実験の結果を統合し、以下の2点が明らかにとなった。ⅰ) Jmjd1a/bが相補して制御する性決定関連遺伝子はSryであること。 ⅱ)生殖腺体細胞のH3K9me2脱メチル化とSryの発現制御に関して、Jmjd1aがドミナントに作用しJmjd1bが補助的に働くこと。 今後はJmjd1a/bが直接Sryを制御することを検証するため、ChIP法によりJmjd1a/b DKO生殖腺体細胞におけるSry遺伝子座のH3K9me2動態を明らかにし、Jmj1a/bのSry遺伝子上への局在を検証する必要がある。上記に加え、Sry発現制御におけるJmjd1aとメチル化酵素G9a/GLPとの間の拮抗作用を示し発表した。 計画Ⅱ: セルトリ前駆細胞(Ad4bp/Sf1強発現細胞)に強く発現する遺伝子として約150個を抽出した。この中には既知の性決定関連遺伝子の大部分(Jmjd1aを含め計11個)が含まれており、その他にはメチル代謝の関連酵素や新規lncRNAなどエピゲノムとの関連を予想させる興味深い遺伝子が複数ふくまれていた。今後はこれらの遺伝子の欠損マウスの作成解析を通して、新たな性決定関連遺伝子の発見が期待される。
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