本研究の目的は、国立ハンセン病療養所に隔離収容されていた患者たちに学校は何をなしえたかについて、「隔離」と教育とのかかわりの考察を通して明らかにし、ハンセン病問題を教育(学)の視点で明らかにするためのパースペクティブを提出することにある。 そのことを通して、「隔離」と教育の差別構造の解明に向けての視点を明らかにしていく。本研究目的達成のために、平成30年度は次の調査研究を行った。 (1)療養所及び関係団体所蔵史資料の収集と整理、検討:国立ハンセン病療養所付置の資料館及び書庫、図書室において所蔵されている史資料の収集と整理、検討を行った。(2)関連史資料の収集:図書館・資料館や公文書館、古書店などを利用して、ハンセン病にかかわる子どもの「隔離」と教育の処遇に関する法制を検討するために、療養所及び関係団体が保有する史資料群だけでなく、国策として「隔離」(と教育)を展開した国(厚生省、文部省など)、「隔離」の実務を担当した都道府県・教育委員会の所蔵する行政文書をはじめ、同時代の学術論文・評論・ニュース記事など多様な情報を収集した(3)聞き取り調査:1970年代に療養所付置学校(学園)で教鞭を執っていた元派遣教師から教育実践に関する聞き取り調査を行った。(4)ハンセン病療養所における教育を戦後教育史に位置付けるための基礎的な調査および研究を行った。(5)「現在進行形の問題解決のために 「人類の負の遺産」を参照し、その価値観を生かす」(書評:清水寛著『太平洋戦争下の国立ハンセン病療養所:多麿全生園を中心に』新日本出版、2019年) 『週刊読書人』3337号、2020年4月を執筆し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関係する人々への誹謗・中傷と、ハンセン病「隔離」もとづく差別との類似性を指摘した。
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